君と交わしたあの日の約束

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 旅館に帰るとお風呂に入り、夕食を食べ、寝る支度を整える。布団に寝そべり、本を開く。紙は色褪せ、本からは古い本独特の匂いがした。『緑ノ浜の軌跡』そう題名の付けられたこの本は、本当に歴史が淡々と綴られているだけだった。この町の歴史を複数の人たちがまとめ、本にしたようだ。この町は本当に愛されているんだな。そう思いながら優はページをめくっていく。半分近くまで読み、そろそろ終わらせようかとしたところに興味深い内容があった。『結糸伝説(ゆいとでんせつ)』この章には緑ノ浜で起こった伝説が描かれていた。 「ある所に貧しい男がいた。ある日彼が町に出ると、町は一段と賑わっていた。この町では最近、外の世界から輸入された『あくせさりー』というものが流行していた。色彩豊かな光る石に糸を通したもので、とても美しい。人々はそれを腕や首につけ、自分の物が一番綺麗だと言わんばかりに町を歩いていた。男も当然、その飾りの美しさに魅了された。次の日、男は家にある金貨をかき集め、もう一度町へ出た。しかしながら、あくせさりーはどれも高価で、男には手の出せない代物ばかりだった。男は諦め、家路についた。すると、先程は何もなかったはずの場所に怪しげな老婆が座っていた。その老婆は男に声をかけた。『哀れなお前さん。この糸を買わないかい。この糸には不思議な粉が含まれていてな。ある条件がそろうと願いが叶うのだ。どうだ。買ってくれたら、その条件を教えてあげるぞ』糸は夕飯を買うのに十分な値段だったが、さっきまでの高価な品々を見ていた男には、それがとても安く感じた。男は老婆に言われた通り、碧色、茜色、白金色の三色の糸を買った。『お前さんは碧色と白金色で結うのだ。今から言う、特別な編み方を決して忘れるではない。この編み方により出来た結糸が切れた時にお主の望みは叶うだろう。そして、お前さんに愛する人が出来た時に、茜色と白金色の糸を同じように編むのだ。すると、そやつとそやつの愛する人に一生の幸せが約束されるのだ。』」  優はすぐに自分のミサンガを見た。優は色に詳しいわけではないが、このミサンガの色は単なる青ではない。碧色…。優は碧と昔交わした言葉を思い出した。
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