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「優?起きてるんなら早く降りてきなさい!朝ご飯できてるわよ」下の階から叫ぶ母、墨零の声が聞こえる。「はーい」優はベットの上にある目覚まし時計を見た。いつもより十分早い、六時五十分。ゆっくりと起き上がり体を伸ばした。窓から外を見ると、雲ひとつない晴天が広がっていた。
「おはよう、お父さん」
「あぁ」
優の父は多分人に興味がない。今日も新聞を見つめながら挨拶を返してきた。優は気にせず朝ご飯を食べ、大学へ行く準備始めた。
「優?その格好、だらしなく見えるからやめなさい」
「え、でも、これ最近流行ってて」
「いいからやめなさい!」
「わかった、上にもう一枚羽織るね」
「それでいいわ。それより、昨日言ってた課題はやったんでしょうね」
「あー、昨日は疲れてたから、今日大学でやろうと思ってて」
「もう、あんたって子は。そうやっていつも後回しにするからいけないのよ。なんでいつもちゃんとやらないの!?」
「ごめんね。終わるからいいかなって思って」
「そういう問題じゃないのよ」
「ごめんなさい。これからは気をつけるね!」
「気をつけるってあなたこの前も言ってたじゃない」
「そうだよね。でも、そんなに怒らなくてもいいんじゃないかな?」
「怒るわよ。怒らないとあんた…」
「ごめんね、今日は早く出ないと」
「あ、ちょっと」
「いってきます」
優は地方大学に通う大学二年生なのだ。いつもより少し早く家を出ると、目の前の家から一人の青年が飛び出してきた。彼の名前は佐々木碧。優の幼馴染であり、優の彼氏なのだ。
「あれ、優じゃん!おはよ。」
「おはよう!碧は大学?いや、その格好はバイトかな?」
「そう!!」
「おぉ!当たった!私はこれから大学なんだ」
「そっか!じゃあ、駅まで一緒に行こうよ」
「うん!行く!」
「やったー!でもさ、いつもこの時間じゃないよね」
「うん。今日は準備早かったから」
「へぇ、そうなんだ」
「…。あのさ、時計、つけてくれないの?」
「え?」
「昨日、誕生日プレゼントにあげた時計。ちょっと良い時計欲しいって言ってたから、バイト結構頑張って碧が好きそうなの買ったんだけど…」
「あー、そうだよな。優、俺の好み知ってたのか?」
「好みって、ブランドとか、色とか?」
「そうそう」
「もちろんだよ。それで、その、つけてはくれないの?」
「あ、いや、その、大切にしたいなって、思って…」
「じゃあ、家にあるの?」
「うん。家に飾ってある」
「ほんと?」
「うん、本当だよ」
「そっか。それなら、次会う時はつけてくれると嬉しいな。ほら、せっかくの腕時計なのにつけてもらえなきゃ、時計も不憫だなって思うし」
「わかった、たしか…えーっと」
「デートは再来週だよ」
「そう、再来週だよね、うん、つけてくるよ、必ず」
「ありがとう、楽しみにしてる」
「うん」
優は碧の表情の曇っていることに気づいていたが、知らないふりをしてそのまま歩き続けた。自分の選んだ時計を気に入ってもらえなかったのかもしれないという現実を受け止めたくなかったのだ。優は昔、碧にもらったミサンガを触った。
二人は普段と変わらない様子で最寄りの駅まで歩いた。優と碧の目的地は反対方面なので、二人は駅に着くと「またね」と言いそれぞれのホームに向かった。優は反対側のホームから碧の姿を探したが、碧のいるホームは通勤や通学の人たちで溢れており、見つけることが出来なかった。碧のあの表情はなんだったのだろうか。その事を考えていたら大学の近くの駅に着いた。優は重い足取りのまま大学へ向かった。
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