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少し暗くなってきたので、優はゆっくりと家に帰ることにした。父も母もどうせ優がいないことなんて気づいていない。優は少し遠回りしようと思い、通っていた小学校と中学校を周りながら帰った。すると、暗い道の中に一軒、明るい建物があることに気づいた。そこは、昔よく駄菓子目当てで訪れていた、小さな古本屋さんだった。この時間に開いているなんて珍しい。優はそう思い近づいてみると、『誠に勝手ではありますが、今月末でお店を閉めさせていただきます。今までありがとうございました』と紙に乱雑な字で書かれていた。そして、中を覗くと悲しそうに本を見つめるおばあさんの姿があった。この古本屋は私が小さい頃にすでに古かった。随分長い歴史を持ったお店なのだろう。おばあさんは思い出を噛み締めるような表情をしていた。この古本屋は優にとっても思い出深い場所だ。前にあるベンチで、よく碧と二人でもらった駄菓子を食べていた。少ないお小遣いじゃ本はたまにしか買えなかったけど、駄菓子を食べながら何時間もくだらない話をしていた。おばあさんはそんな私たちをいつもにこにこと嬉しそうに見ていて、たまに面白い本を紹介してくれた。優は碧を素敵だと思い始めたのはこの頃からだったと思い出す。泣いたり、喧嘩したこともあったけど、駄菓子を美味しそうに食べる碧も、本を楽しそうに見る碧も全部いいなって、たしかに、この古本屋の前で思った。
あれ、やっぱり私、碧のこと大好きじゃん。あーあ。なんであんな風に言っちゃったんだろう。碧は質問攻めもスマホ打つのも苦手なのに。それを知ってて私は自分の得意なやり方で話を進めた。あぁ、もう、私の馬鹿。もっと碧の話、ちゃんと聞けば良かった。電話でも会うでもすれば良かった。碧に嫌な思いさせちゃっただろうな。怒ってるかな。こんな自分が心底嫌になる。
実はずっと思ってたけど、碧だって幼馴染が、彼女が、私以外だったらもっと幸せだったんじゃないかな。考えないようにはしてたけど、もうダメかもしれない。フラれるよね、私。きっと碧は、いつかもっと素敵な人と出会って、一緒に人生を歩むんだろうな。空から雫が落ちてくる。…雨。こんな気分の時に雨が降るなんて、漫画みたいだ。優はその場にしゃがみ込み、ミサンガを触った。不安になった時によくやる癖。こうすると、いつも不思議と気分が落ち着く。
でも、今日だけはダメだった。
私なんて、いなくても誰も困らないんだろうな。母も父も本当は私のこと疎ましく思ってるに違いないし、何より碧に嫌われたら、私、もう、、、
『消えちゃいたい…。』
そう思った瞬間。ミサンガがぷつん。と切れ、周りが真っ白に光った。「なに、これ」
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