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碧は、ふと足を止めた。何か、とても大切なものを忘れている気がしたのだ。
「俺、なんで外にいるんだっけ…?」
碧は来た道を走って戻った。そして、優の家のインターホンを押した。
「はーい」
墨零が出てきた。
「おばさん、あのさ、俺、何、頼まれてたんだっけ?」
「何ってあの子が家を飛び出しちゃったから、行方を知らないか聞いたら、あなたが連れ戻してくるって…」
「あの子?あの子って誰ですか?」
「あの子はあの子よ。ほら、、、誰、だっけ?」
墨零は眉をひそめた。
「ごめんなさい。忘れちゃった。ちょっと寝ぼけてたみたい。多分、大したことじゃないわ。それより、碧くん、今日は豚の角煮よ?食べてく?」
「はい。お願いします」
それから碧は夕食をいただいた。この時も、碧には疑問が残り続けた。俺、なんでこの家族と仲良いんだっけ。家が隣というだけで毎月夕食をご馳走になる仲になるか?誰か、もっと大切な人がいたような…。ズキ。思い出そうとすると頭が痛み、これ以上は思い出せなかった。夕食を食べ終わり、食器を片していると、墨零が優の父である剛に話しかけた。
「あなた?うちの食器ってこんなに少なかったかしら?」
「食器?何の話だ?」
「なんだか棚がスカスカな気がするのよね」
「言われてみれば…断捨離したんじゃないのか?リビングの物も随分と減ってるし」
「え?私断捨離なんかしてないわよ?あなただと思ってたわ」
「俺じゃないぞ。」
「…。嫌だ、泥棒でも入ったのかしら?警察に連絡する?」
「いや、ママの記憶違いってことも」
「ママ?ママって誰のことよ」
「ママはママだろ。…。あれ、俺、墨零のことなんでママって呼んでたんだ?」
「ちょっと何の話してるのよ。はぁ。私たちきっと疲れてるのよ。なんか大事な事を忘れてる気もするけど…。今日は早く寝ましょ。碧くんも今日はゆっくり休んでね」
「はい。ありがとうございます」
碧は家に向かいながら考えた。やっぱり何かがおかしい。誰かが足りない。僕にとってもあの夫婦にとっても大切な誰かが。一体何が起きてるんだ?碧はふと腕を見た。すると、記憶にない赤いミサンガがついていた。なんだ。このミサンガ。やっぱり何かおかしい。碧はスマホを取り出し、アルバムを漁った。
「やっぱり…。」
碧のアルバムからはまるで本来そこに誰かがいたような写真が何枚も見つかった。碧は考えた。
『多分、本当に多分だけど、僕達の記憶から大切な誰かが消えたんだ。おそらく、墨零さんたちの家族で、僕にとっても大切な人。そして、その人が映る写真や関係する物は消えている。だけど、このミサンガだけは残っている。このミサンガが鍵になっているのか…?』
ズキズキ。これ以上考えようとすると碧は激しい頭痛に襲われた。
『僕は一体、誰を忘れているんだろう。僕にとって大切なその人は一体、誰?』
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