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「あ…あの。」
「な、何でしょう?」
「こ、これ…お、おと…。」
「あ!わたしのハンカチ!おねえさん!ありがとう!」
「…すみません〜。ありがとうございます。」
偶然落とされたハンカチを先程の母子に声をかけて、渡した葵は子供の純粋な笑みにも感謝の言葉にもうまく応じることができず、ペコリとぎこちない会釈をする。
人は見た目によらぬと言われるが、葵の中ではその言葉が自分に当てはまる気はしなかった。
「………無理だ。」
葵はそう呟いて、足早に静かな夜行性の動物がいる建物へと入った。
一通り動物を眺めた葵は屋外の檻にいる動物を見て回ろうと出口に向かうが、入った時とは明らかに空模様が違うことに気付く。すかさず小さなバッグから折り畳み傘を取り出し、傘を差す。
雨女である彼女にとって折り畳み傘の常備は必須であった。賑わっている場所が苦手な為か、雨を降らせて賑わいを少しばかり奪うなんてことはよくあることだった。
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