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「雨の予報なんて無かったのに!」
「雨宿りするしかないな…。」
そんな若い男女のやりとりを端に、葵はぼーっと動物を眺める。突然の雨に皆、屋内か雨を凌げる場所に避難しているのか人通りはほとんどない。葵にとってはこのような状況は珍しくもなかった。
しかし、今日は一点だけ違った。傘を持っているわけでもないのに、葵が動物園に入場したときと何一つ様子が変わらない人物がいた。
黒髪のベリーショートにモノトーンのスプライトが入ったシャツをラフに着こなし、黒いスラックスに黒いブーツを履いている少女だけは、じーっとシマウマを眺めていた。それも嬉々とした表情で。
葵にとってはあまりにも異様な光景であった。雨に打たれる感触、濡れたシャツが肌に張り付く感触、靴の中に水が侵入し、不快な感触を覚えるはずなのに彼女だけは嬉々としていた。
それを思わずじっと眺めていると、自分と歳もそれほど離れていないであろう少女が振り返り、微笑みかける。
あまりにも綺麗な笑顔に、葵はどう反応していいか分からず、逃げるようにその場を去った。
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