扉、其ノ先ノ...

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扉、其ノ先ノ...

 夕刻、割とこの時期は澄んだように見える夕暮れを目にすることができる。葵はぼうっとその景色を眺めて、すぐに机と向き合う。勉強は遅れていない。今時は、ネットで探してしまえば、普通の動画サイトにも授業動画は上がっている。何度も見返せる映像授業というのは、顔を合わせる必要がない。分からなくなれば、人目を気にせずともこうして小さな端末で確認出来てしまう時代だ。葵にとってはちょうどいい。  出席日数は足りている。どうしたものか。今日は休んだが、明日は─。  プルルルルル。葵の部屋の外から微かにその音が聞こえた。家には葵しかいない。電話でやりとりを頻繁にするような間柄、葵にはない。恐る恐る固定電話に手を伸ばし、耳に当てる。 「……高梨葵さんのお宅でしょうか?」 「─えっ、あ、はい。私…です。」 「よかった。日中連絡を入れても、誰も出なかったからな…。ところで、明日学校に来てくれる?」 「…な、なんでです?」 「集合写真の撮影をするんだ。最悪、遅刻でもなんでもいいから五時間目には顔を出していて欲しい。」 「…そう、ですか。わかりました。」 「ありがとう。要件はそれだけだ。失礼した。」  プツッと通話が途切れて、葵は電話を元の場所に戻し、少し重い足取りで自室に戻る。机に広げられたノートと教科書とスタンドに立てかけられたタブレット端末。いつもと何も変わらないはずだったが、何か自分の空間を乱された気がした。葵は溜息をつき、椅子に腰掛けてじっと窓の外の景色を眺めた。 「お母さん、今日早く帰ってくるって言ってたっけ。」
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