プロローグ

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プロローグ

 一人に慣れると、独りに為る。  高梨家の一人娘は、父親にそう言われたことを思い出し、眉をひそめた。重たい前髪がその表情の変化を隠していたが、彼女が世間で言う一般人とは少しばかり違うのは、目に見えて明らかであった。  重たい前髪、長いストレートヘアー。服装にも無頓着なのか、その容姿にはそぐわぬカジュアルな服装。そして彼女の肩は少し前に押し出されて、背中も丸まっている。そして斜めがけのショルダーバッグは異様に小さく、年季も入っているようだった。  そして今日は平日だ。長期休暇でない限り、彼女くらいの歳の子は大概学校に足を運び、勉強するなり、内職するなり、居眠りするなりしている。それなのにも関わらず、高梨家の一人娘、高梨葵は動物園に足を運び、その手でひしゃげた入場券を握りしめていた。学校をサボタージュするにしてもあまりにもテンションが低く、周りからむしろ避けられるような雰囲気を醸し出していた。
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