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よってほどなく暁士が偽夫婦を脅した折には胸がすいた。
『この私に無礼を行う者あらば、一刻とても生かしてはおかぬ』
庸玄は当初より暁と暁士の事実は知るが、会う機は少ない。近頃も帝の側近として特任隊長の報告奏上などで儀礼的に見るのみである。
冷酷皇子の印象も残るゆえに、かような脅しは有効だ。いわんや姜芽など、とんだとばっちりにて哀れですらある。
……などと喜怒哀楽をしながら傍観者然としていた徳扇。
しかしそれより始まる廼宇の独擅場には、心の臓を掴まれた。
その見映えその言その振る舞い、全くもって目が離せぬ。
占術師からの悪意に満ちた問答をぶった切り。
ありがたき予言の勧めを、己の父の話まで巧みに持ち込み有無を言わせず断り。
都度大変に不興を得た帝は、慄眼を放ったと思う。占術師ゆえに妖術とでも言えるだろう。横並びの徳扇にはしかと分からぬが、廼宇は平伏せずにいるからさすがに軽くしたものか。
……徳扇の内心に遠慮なく語らせるならば。
帝が不興を得るは当然だ。全てを肯定される人生の覇者が仮装などしてその権利を手放せば、今まで知らぬ類の不快があるは必定。
とはいえ、皇帝。居るも語るも、放つその気には抗いがたい圧を感ずる。徳扇ならば知らずのうちにも頭を垂れるに違いない。
いやはや、王廼宇の胆力よ。
徳扇が唯一口を出したのは、瑠璃喰鳥の話の折だ。
暁士が生まれたその朝に、瑠璃喰鳥が訪った。帝と二人で見たのだとは藍蘭妃がかつて徳扇に知らせたところ。だがこの場の皆までは知らぬゆえに、信を得るべく廼宇に語らせる。
…………で?
なぜに。
かように高貴な場にて。
迫力満点の占術師を、闘いにも似る応酬で不興にせしめた不穏な場にて。
子供相手の劇さながらに拳をくりんくりんと回し、面をにへらにへらと崩して、お花畑で遊ぶがごとく楽しそうに語れるものか。
禍々しいはずの瞳を可愛いと評するも、その阿呆なる外観にも卓のこちらの皆が呆れている。
そして瑞兆だろうが鳥は鳥、とのほほんと言い切るさまにまた皆が油断をした、その後で。己の役目を思い出し、慌てて庸玄が挑発を繰り出せば。
廼宇は満面の笑みを浮かべつつ、……とんでもない言にて応じたのだった。
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