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 半月もせぬうちに、廼宇はおかしくなった。  おかしい以外に言いようがない。俺には理解のいかぬ態ゆえに。  果てた後に、冷める。それは当然だ。  しかし俺は自身があまり冷めぬ、というより廼宇を見れば即座に新たな念が湧くからすぐに廼宇を弄る。放心のまま急速に冷える廼宇をすかさず弄り俺の元へと連れ戻す。常にはそんな日々だった。  近頃の廼宇は、本当に冷める。  再び弄りに行く俺が思わず手を止めてしまうほどの目になる。そして静かに何ごとかを考え込むようだ。……だけれども。中途に止まる俺の手に気づいたならば、俺を見て優しく微笑み、己の手をこそ絡めてくる。  ……この折の心中は、いかなるものか。  果てた後には嫌ではないかとわざと問うと、あなたを見れば腕も伸びます、などと甘い言を口にする。理性のなせる言と思えば甘かろうとも肝が冷える。  以前とは確実に、何かが違う。  心が妙に痛んで止まぬ。その痛みはいかに廼宇が優しく振舞おうと去ることがない。  いつか、何かが起きるのではないか。漠然とした不安を宿したままさらに半月が過ぎた頃だった。廼宇はついに、その何かを起こした。 「この屋敷を辞させていただきたく存じます」 「辞す、とはいかなることだ」 「一人で暮らしたい、と」  俺はしばらく声が出せなかった。  いや、息すらも出来なかった。廼宇が俺の異変に気付いてさらなる声をかけなければそのまま息をせず絶命したかもしれぬ。 「ぎ、暁士様から離れるということではないのです。……暁士様?」  その言葉でなんとか息を取り戻した。胸が大きく波打つのを悟られぬよう身体を整える。
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