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 やがて、廼宇の戻りが遅くなった。俺より遅い日すら増えた。 「何をして遅いのだ」  勝手な想像が嫌だからと面と向かって訊けば、『体術の約もないゆえ好きに過ごしておりまする』などと、それ以上の問いを断つ。  帰りを待つ己の胸中に耐え切れず、俺も帰宅を遅くした。  ……俺の手の中にいた廼宇が、離れていく。  どこまでも、共に連れ行く。やはり俺はその約を破ったということか。約を破るはかような禍をもたらすか。……廼宇を辛くしたのだから、俺も辛くて仕方がないか。      ほどなく、空条から会いたいとの言伝を得た。  隊棟に来るというが空条は俺と廼宇を知る男なのだ。その日のうちに俺から空医所に寄ることにした。いつもながら無駄に丁寧な挨拶を終えると、空条は少々気を遣う様子で話し始めた。 「私がその、かような言を申し上げるなど恐れ入りますが。暁士様はなぜその、あいつ……王廼宇を、遠征にやらないことにされたのでしょう」 「……私の一存による決断だ」 「あの件で三月ほど空きましたが、養生の間にも医術書を熱心に学んだようで思いのほか勘の戻りも早うございます。怪我人としての体験もむしろ介護の技に役立てようと気を入れておりました」 「廼宇は優秀だからな」  俺の欲目もあるが、と自覚しながら言えば、空条はいとも簡単に同意した。 「あの馬鹿野郎はやはり、なかなかの才がございます。何よりも、努力が出来る馬鹿野郎だ。今の様子なら二年もたたずに遠征に行けるよう仕上がりますのに、廼宇も、そして私としても少々残念な思いでございます」
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