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 俺の言が途切れたと解すると、では、と言って廼宇は自室に向かった。 「俺だけを見るのではないのか」  思わず言を投げつけた。 「ただの妓女です。馴染ですらありませぬ。……私は変わらず、あなた様のものでございます。湯浴みの後で伺います」  来なくていい、と、言いそうになった。  けれどそれすら言う権利のない気がした。  俺とて廼宇のみと肌を合わせる訳ではない。  職の上、女との交わりまでも致し方ないこともある。廼宇は職ではないが、だからといって責めてよいのやらわからぬ。そもそもが妓館通いなど責められることでもないと言えば、それまで。  湯浴みの後の身体からは白粉の甘い香りは消えていた。  それでも廼宇の胸を手を触るたびに思い出し不快な苦しさを覚える。難癖をつけたくなり、中途で止めて話題にした。 「妓館など、金のかかるばかりだろうに」 「以前より使う折もなく、薫布で賞与もいただきますし。近頃では一人暮らしに使うかとも思いましたが、今では当てもないゆえに」    一人暮らし。  ここで聞くとは思わずにいた言が、俺を射た。 「……さほどにここを出たかったのか」 「諦めてございます。ですので金も使っています」  ひと言ごとに、胸がえぐられる。  しばらく前まで、あの事件より戻り来た頃まで、廼宇は自然に俺の手の内にいた。俺のもとで悶え、歓び、そして安らかに眠った。時が余れば少しの折とて共にいた。  俺が先々一緒に歩むための課題を与え、廼宇は邁進した。  やはり俺が壊してしまったのか、その完全なる間柄を。
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