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暁嬢
廼宇の生活は変わった。
玲邦に部屋を借りたからと、薫布にいる時間が増えた。
空医所通いの後にも来るなどと聞いた気もするが、遅くになっても玲邦に戻るのが常だ。余程天気の悪い時には宿をとったことまであったという。
俺には探ることすら出来ぬその事実を聞き出した雨華が、あまりに他人行儀に過ぎる、と大真面目に怒った。すると大人しく屋敷に来るようになった。
よって天気の悪い日の俺は浮足立って落ち着かぬ。
週末の二日は屋敷に来る。
金曜の夜に来て日曜に戻る。土曜は空医所。日曜の昼前は俺とゆっくり過ごし、昼下には空医所を手伝いに行くからお別れだ。
けれど屋敷にいるならば。そう、屋敷にいる時の廼宇は、以前と変わらず俺を慕い来る。いや、以前よりも求めに来る。俺は戸惑いを隠しつつ応える。あの時の、泣いて膝をつき手をついた廼宇の姿を脳裏から消し去れないままに、目前の廼宇の求めに喜びを見出す。
二人して果てた後には廼宇は速やかに湯に行き始末をする。冷める顔を見せぬ心遣いか。不安なる勘繰りに襲われて寝転がり、時を過ごす。
そうして不貞腐れた俺の髪を、湯から戻った廼宇の優しい手が撫でる。
髪を撫でながら、なんとも愛しそうな顔をする。
俺から離れ俺をこんな地獄に堕としているくせに、呑気な顔で俺を撫でる。しかし、そんな廼宇の顔がまた好きなのだ。堪らなく好きだから、俺は撫でられたまま出来るだけ動かずに、このひと時が少しでも長く続くように願う。
廼宇の去った、日曜の夜。
俺は寝所で、自らの肩を抱き眠る。
廼宇は平気なのだろうか、この、廼宇が望んだ日常が。すでにひと月が立つが俺は全く慣れることがない。
……ああ、明日からはまた一人で職に行くのだ。職とは戦いの日々だから今のうちに休まねばならぬ。もうあと何日会えないか、何日たてば会えるのか。そんなことばかりを考えながら、夜半になって漸く眠りにつく。
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