距離

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「おお、徳扇。何しに来た」  この秋を思い出し、洪絽宅から北別への道筋とても二人を案じて護衛体制に思案するばかりであった徳扇にすげなく警戒を見せる暁士。まあ、これぞ廼宇と仲良き証左である。 「年末のご挨拶に参りました」 「うむ。今年も大変世話になったな。くる年にもまた大変世話になることだろう。では」 「あと今一つ、先の遠征の報告につい」「そうだ、徳扇。先日久方ぶりに珠然に会うたぞ。面白い話を聞いた」 「報告が未だ出ておら」「治安院第一席の祥丁濫(しょうていらん)の件。お前、あのジジの息子になり損ねたそうではないか」 「……は?」 「ご息女に惚れられていたのだから婚姻すれば良かったものを、と語ってやった、それすら忘れたらしき徳扇に甚だ呆れていたぞ」  ……おお、聞いたことがあると思った。祥丁濫の娘と婚姻していれば特任隊、草案では国境討伐隊だったそれは簡単に承認されたであろう、と珠然に言われたことが確かにあった。あれは慄眼の試練の後のことだ。 「……だが、珠然はな。どうも身体が悪そうだ。少しく痩せていた」 「秋口にお会いした折に私も気になったのですが……」 「短命の家系です、などと笑っていたが。気になるな」 「私も年明けにでも訪うように致しまする」 「うむ。徳扇自身もまた年を重ねるゆえに、大事にしろよ。では」 「で、報告書はいつご」「そうだっ! 素晴らしい事態なのだ、聞け、徳扇」 「いや私の話の後でよ」「姉君がな、お戻りになるそうだ。次の春。半月ほどは留まられるらしい」 「…………!」
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