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『常ならず、熱く激しく睦み合うたその朝に。我ら二人の窓辺に寄り来てございます』
……惚気を越えた、暴言だ。
つまり、またもや悪意をぶった切ったか。巧みにしてなんと大胆な男であるか……との感を得るまで、徳扇自身も唖然とした。
やがて帝が、この度ばかりは横並びにもあからさまなる慄眼を放つ。
受けた廼宇はやはり頭を下げず、目をぱちくりとしただけだ。暁士と同じく堪えうる能か、あるいは微動すら出来ずにいるものか。横並びの徳扇でさえ背筋冷たく平伏したくて叶わぬからには後者であろう。
「……稀なる体験をしたものだな。睦めば会えるものではない」
慄眼の終わりと共に声を発して室内の気を緩ませるが、場を牽引すべき庸玄は毒気を抜かれたように押し黙っている。
「はい。瑞兆にまで祝われ、誠に得難き伴侶と思うてございます。……おや父上母上、術師様にも少々お疲れのご様子。我らはそろそろ失礼致しまする」
かく言う暁士は得意満面。
そして徳扇の内心とても、得意満面。
皇帝と側近らの茶番と虐めをすっかり打ち沈めたこの男が、俺の息子となるかもしれぬ。あの惚気だとて、俺には最早すこぶる痛快。
腹底がふつふつと喜ばしく、かような己は完全に卓向こうの味方であると自覚した。
二人が去るにあたり迎えと同様に一瑳が送る、となぜか藍蘭妃がそっとついて出た。人気が減り静かになった客間に、帝の声が響く。
「あれは、いかなる生き物か」
迂闊に応じれば不興を買いそうな問い。いや問いですらなさそうだが誰か何かはお答えせねば。
「……暁殿下のお選びになったお相手にございます。やはり徴豊かなお方かと」
無難に茶を濁してみたが、後には誰も続かず帝も黙するのみ。
ほどなく紫萌らが戻り、場の皆が安堵した。
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