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「父帝陛下にはつつがなくお過ごしのご様子で何よりです。かの者はお気に召さぬと察しますけれど」
なっ。……帝のお気に召さぬだとっ。
軽々しく言われては困る。聞く者によってはそのまま刺客が放たれる言い回しだ。
「い、いかなる由にございましょう。紫萌様のお眼鏡には叶いませなんだか」
「ほほほ。わたくしは大変面白うございましたよ。……あのね、私のこと、可愛らしいって褒めてくれたのっ」
突然に紅萌の口調となれば面とて娘のごとくなる、素晴らしき才。特任隊でその類の任につけば良き功を上げるだろう。
そして廼宇は、暁士の姉たる女のかような態にぬけぬけと可愛らしいと言ったのか。本心か世辞かはさておき、やはり徳扇とは違う。
「遠目に見かけましたが、母宮様が興を引かれたのでしょう。わたくしも母宮様も気に入る素敵な殿方など、父帝陛下には当然お気に召さぬかと」
帝はじろりと目を剥いた。もちろん慄眼ではなく愛娘の言に不本意を現したものである。
「当然、気に食わぬ。しかしさような由ではない。無礼なるゆえである」
「まあ」
「が。……庸玄」
「はっ。あの度胸と肝の据わり方。中身は兎も角、口を開く折を弁えている。そして何とも呆けた語りながら、瑠璃喰鳥の訪いを得た仲とは確かでございましょう」
さすが庸玄、先の様子と『が』のひと言にて廼宇肯定と判ずる。
「まあ、瑠璃喰鳥の話まで。わたくしは先日暁より聞きましたが、委細までは決して語らず。いかなる折に見たのでしょうか」
「…………あ、朝……」
ひひ庸玄め。紫萌様に嘘はつけぬし、なんと答えるつもりやら。
二人を虐めた庸玄の困窮にはつい口元がにやつく徳扇であるが、誠に残念ながら答えの前に藍蘭妃と一瑳が戻り来た。
卓前に立ち、深々と礼をする。
「烈頼様。わたくし、大変申し訳ないことを致しました」
「……一瑳」
「はっ。王廼宇に寸劇を知られましてございます」
「ほう。いかに知れた」
帝を代弁して庸玄が問う。
「……さて、しかとは。占術師様には睨まれて当然、との廼宇の言に妃殿下が忍び笑いをなさいました。その後かの者は妃殿下のお顔を見つめたゆえに、どなたかと血繋がりを感じたのかもしれませぬ」
「知れたとはなぜ分かる」
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