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特任隊の賊狩りは、危険だ。
ある時は山岳地帯の賊を狩る。またある時は砂漠の賊を狩る。
金も財も一時に運ぶ交易商人を狙って巣くう輩は、都市より追われた罪人らと、その地の民との融合だ。そして時には周辺国の思惑を含む間諜すらも混ざる。劉国の法の観念では測れぬ者らである。
特任隊はその数、選りすぐりの六十余名。
遠征へは交代で、目的によるが二十から四十名程度のみ。現地で調べにあたった兵部や治外の者も加わるがいずれ少数精鋭にて各自の責は重く、尋常ならざる武と知、そして信のある手練れのみが集められている。
そんな中に廼宇を混ぜるならば後方に控える医療班しかなく、実のところ数年で確かに使えるようになるという。廼宇の能と努力は相当なものなのだ。
だが、医療班でも危険は伴う。地の利のある賊に後方から不意をつかれ、医療班の各々が保身しつつ陣を変えたことも一度ならずあった。
平時とて、囚われては酷い目に遭うあの男。
廼宇を危険に晒してはならぬ。
更にまずいのは、俺の心がその念にて廼宇に向き、隊の統率が乱れることだ。しかし今となっては俺の心はどうにも、……どうしても、廼宇に向いてしまう。
つまりこれは、俺の弱さゆえの決断。
全てに応えた廼宇を裏切ることになる、決断。
……胸の奥が、苦い。
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