愚か

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「……妓館の件の故でしょうか。私が役立たぬ者と評されるのは。怪我をして、ご心配をおかけしたから」  廼宇が北別に戻りふた月。  この間の遠征を経て考えを固めた俺は、勇気を絞り廼宇に告げた。  ……諸々考えてみたところ、やはり、遠征にまで伴うことはないだろう。  空医所にて空条とともに特任隊の陰助に当たれ。もしも医術よりも薫布に専念することを望むならば、それもよし。 「特任隊など、私には過ぎたる任とは存じております。存知ながらも、励ましの言を受けましたがゆえに、復帰後にも必死で取り組んでおりますところ。……いつかは共に、参れるようにと」 「役立たぬなどとんでもない。お前の才は空医所でも薫布でも存分に発揮出来る。……そうだな、時には遠征の中途まで俺と行くのもいい。そしてお前は薫布向けの買い付けをし、西中都の趙家で落ち合い戻ればいいのだ」 「……お世話になるばかりで。お役に立てず申し訳なく存じます」  全く筋の違う詫びを残し、他人行儀に礼をして部屋から去る。  俺はやはり、廼宇を傷つけたのだと悟った。  だが廼宇自身も以前より、過ぎたる任だと言っていたではないか。俺と共なる職という意味では空医所の陰助とて同じだ。隊の話を隠す要もなく、大都で怪我をすれば酷い折ほど空条の世話になるのだから。  薫布もまた、共なる職だ。  もとより商才のある身、適材適所に違いない。暁嬢とじゃれ合いながら店をやり、店の利のためにも思い切り拡げ、北大都いちの布屋にすればよい。  それで、良いではないか。  そうとも。空医所に薫布にと日々を暮らすうち、やがてのうちには落ち着くだろう。  ……だが、しかし。  論を捻り出し己を正当とみなし息をついた俺は、やはり、あまりに安易で愚かな男であった。
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