183人が本棚に入れています
本棚に追加
「……妓館の件の故でしょうか。私が役立たぬ者と評されるのは。怪我をして、ご心配をおかけしたから」
廼宇が北別に戻りふた月。
この間の遠征を経て考えを固めた俺は、勇気を絞り廼宇に告げた。
……諸々考えてみたところ、やはり、遠征にまで伴うことはないだろう。
空医所にて空条とともに特任隊の陰助に当たれ。もしも医術よりも薫布に専念することを望むならば、それもよし。
「特任隊など、私には過ぎたる任とは存じております。存知ながらも、励ましの言を受けましたがゆえに、復帰後にも必死で取り組んでおりますところ。……いつかは共に、参れるようにと」
「役立たぬなどとんでもない。お前の才は空医所でも薫布でも存分に発揮出来る。……そうだな、時には遠征の中途まで俺と行くのもいい。そしてお前は薫布向けの買い付けをし、西中都の趙家で落ち合い戻ればいいのだ」
「……お世話になるばかりで。お役に立てず申し訳なく存じます」
全く筋の違う詫びを残し、他人行儀に礼をして部屋から去る。
俺はやはり、廼宇を傷つけたのだと悟った。
だが廼宇自身も以前より、過ぎたる任だと言っていたではないか。俺と共なる職という意味では空医所の陰助とて同じだ。隊の話を隠す要もなく、大都で怪我をすれば酷い折ほど空条の世話になるのだから。
薫布もまた、共なる職だ。
もとより商才のある身、適材適所に違いない。暁嬢とじゃれ合いながら店をやり、店の利のためにも思い切り拡げ、北大都いちの布屋にすればよい。
それで、良いではないか。
そうとも。空医所に薫布にと日々を暮らすうち、やがてのうちには落ち着くだろう。
……だが、しかし。
論を捻り出し己を正当とみなし息をついた俺は、やはり、あまりに安易で愚かな男であった。
最初のコメントを投稿しよう!