雨乞いの季節

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 女官たちは、ティトリに話しかけることを禁じられていた。ティトリが尋ねたことには答える。しかしそれも、王から許された限りでのことであった。  ティトリの部屋の扉は一面に装飾の施された豪華なものであったが、外側から鍵がかけられていた。扉の腰ほどの高さのところに細長い小窓があり、食物はそこから差し入れられた。そのような生活であったが、ティトリは寂しいとも愛されていないとも感じなかった。ものごころついたときから孤独だった者は、孤独感を感じることがない。愛を受けずに育った者は、そもそも愛情とは何かを知らない。  一面赤く塗られ、金銀と宝石で飾られた一人きりの部屋で、ティトリはしかし退屈ではなかった。  国中の民の声が聞こえるのだった。草木や獣の声さえ聞き取れるのだった。  そのために昼間は落ち着く暇もなく、夜眠っていても、何度も目覚めさせられるのだった。  皆、まだ嘆いていた。苦しみの叫びをあげていた。    ティトリが祈るたび雨は降った。祭壇を設け生贄を捧げずとも、ただ神の名を唱えるだけで雨は降った。  陸稲の畑は甦っていた。稲の葉は青々と茂り、その穂先には小さな花が咲こうとしていた。  しかし、収穫のためにはあと数ヶ月を待たねばならなかった。今日食べるべきものが、人々には残されていなかった。  だからティトリは祈った。  バールの河の神に、バールに通じるあらゆる川の神々に祈った。ティトリ自身は見たことがない、海というものをしろしめす神、イェマヤにも祈った。  明け方、人々は屋根を叩くばたばたという音に目を覚ました。雨音ではなかった。もっと大きく重いものが、屋根に打ち当たっていた。  慌てて外に飛び出した人々は、思いがけぬ光景に呆然と立ち尽くし、やがて歓喜の声をあげ始めた。  空から降り注いでいたのは、生きた魚の雨であった。      
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