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「アイドルの話はもういいから。これからは目移り禁止ね」
「っ……あ、当たり前です。私、推しは一人しか作らないタチなんです。だから漆沢さん一筋ですよ」
「それじゃあ、唯一のファンが離れていかないように、ファンサ? しないとね」
「え――」
漆沢さんの口から、意外な単語が出てきて目をぱちくりとさせる。
戸惑う間もなく再び唇が重なると、すぐに深いところで交わって、何も考えられなくなってしまった。
……本当にもう、こんな幸せなことがあっていいのだろうか。
それにやっぱり、漆沢さんとのキスは何度したって慣れそうにない。いくら考えてみても、彼とキスしていること自体が夢のような出来事なのだから。
いや、そもそも慣れる必要なんてないのかもしれない。
未だ彼を見るたびに眼福で、声を聞くだけで胸の奥がさざめき、触れられるたびに体が熱くなる。
結局どう頑張っても私はファンであることをやめられないし、なぜか彼もそれを受け入れてくれている。
――それならば、とことんファンを極めて沼に沈んでしまえばいい。
「漆沢さん……」
「ん?」
息継ぎの間に、吐息交じりの言葉を漏らす。
肩を揺らしながら息を吸い込むと、とめどなく溢れてくる言葉を吐き出した。
「好き、です……」
たった一言じゃ私の想いを表すには到底足りないけれど、今与えられた時間ではこれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。
しかしそれでいいのだ。どうせ何時間もらったって伝えきれないし、漆沢さんだってさすがに引いてしまう気がする。だから、これから一緒にいる時間がたっぷりとあることを願いながら、少しずつ伝えていこう。
私にとって漆沢さんは、永遠の推しなのだから――
Fin
※本編完結です。ここまでお読みいただきありがとうございました!初夜はよろしければスタ特にてお楽しみくださいませ……。
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