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収集癖の元を辿れば、原点はアイドルオタクだろう。高校生の頃、失恋で落ち込んでいた時に出会ったアイドルグループ『サイレンズ』のシズカにすっかり惚れ込んで、つい数年前まで追っかけをやっていた。
その彼は二年ほど前に芸能界を電撃引退してしまい、その後に中途入社してきた漆沢さんにターゲットを切り替えたのだ。奇跡的にどことなく雰囲気も似ていて、下の名前も同じだから、未だに運命を感じてたりもする。
栞はこんな私をストーカーだと言うけれど、そんなことはない。そもそもストーカーというのは、相手に付きまとって怖がらせたり、迷惑をかけたりすること。私がこうして、遠くから彼を見て秘密のコレクションをしている分には、アイドルを応援するファンと何ら変わりはないし、問題はないと思う。(たぶん)
少なくとも、私はこんなことを二年も続けているのだから、簡単にやめることはできないのだが。
「ていうか、そんなに好きなら告っちゃえばいいのに」
「そんな恐れ多いこと言わないで……!? こんなミジンコは好きになることすら許されないから!」
「は、ミジンコ?」
いくら近くにいる存在だとしても、人気者の彼を私なんかが好きだなんておこがましい。それにもし告白して振られたことが周りにバレてしまったら、とんだ身の程知らずだと罵られるに違いない。
見た目通りコミュニケーション能力が極端に低い私は、簡単に転職などもできないだろうし、会社に居づらくなってしまうことだけは避けたい。それもあって、将来安泰の大手飲料メーカー企業に就職したというのに。
だからこそ、彼への秘めた思いは決して打ち明けてはいけないのだ。実らないことなど、言われなくてもわかっているのだから。
「陽子もちゃんとしたら可愛いんだからさ」
「いいよ、フォローしなくて……」
「いやいや、元はいいと思うよ? それに女はいくらでも化けられるよ」
「化けるって……」
普段から歯に衣着せぬ物言いをする栞が言うのだから、お世辞ではないのだろう。
おそらく、平たく何の特徴もない私の顔が、化粧映えするということなのかもしれない。
だからといって、今更着飾って会社に行く勇気もない。角田くん辺りに冷やかされる未来しか見えないから。
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