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「せめてその眼鏡外してみたら?」
「これは……ダメ。絶対外さない」
「あーはいはい、そうだったね」
これ以上を何を言ってもダメだと判断したのか、栞は呆れたように肩を竦める。
「でもさ、そのうち取られちゃうかもよ? ぽっと出の美女にとか」
「なに、ぽっと出の美女って」
「真面目な話。だって、陽子がここまでハマってるってことは相当イケメンだろうし、横から来た女にかっさらわれても知らないからね」
栞の言う通り、仕事もできる上に眉目秀麗な漆沢さんはモテる。プライベートのことはさすがにわからないが、社内でも彼を狙っている女子社員は多いらしい。完全に『ラブ』かどうかは置いておいて。
しかしながら、SNSなどを駆使して漆沢さんの交友関係を探ったところ、少なくとも彼がフリーであることはリサーチ済だった。
それにしても、インターネットで検索をかければ、一般人であっても情報が得られるとは、なんて便利な世の中になったのだろう。(多少骨の折れる作業ではあったけれど)文明の利器に感謝していると、栞が水を差すように口を開いた。
「フリーって、本人から聞いたわけじゃないんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「百歩譲って彼女はいなかったとしても、他に女がいてもおかしくないよ」
「女……?」
彼女と女、どう違うのだろうか。首を傾げると、栞は小さくため息をついた。
「遊んでるってこと。モテる男なら周りが放っておかないだろうし、特定の相手がいなくてもセフレくらいはいるかも」
「セ……!?」
セックスフレンド。その名の通り、セックスをするだけのお友達――なんて破廉恥な響き!
「さ、さすがに漆沢さんはそんなことしないよ。優しいし、誠実そうだし」
「仕事上のその人しか見てないでしょ」
「そうだけど……。それにほら、セ……フレなんている人のほうが珍しいんじゃ――」
「いや、私いるけど」
「はい!?」
栞はしれっとカミングアウトをし、何食わぬ顔でグラスを煽る。
彼女に男の影が途切れないなとは思っていたけれど、こんなにはっきりと言われるのは初めてで、開いた口が塞がらない。
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