唯一無二の推し

6/9
前へ
/123ページ
次へ
「せめてその眼鏡外してみたら?」 「これは……ダメ。絶対外さない」 「あーはいはい、そうだったね」  これ以上を何を言ってもダメだと判断したのか、栞は呆れたように肩を竦める。 「でもさ、そのうち取られちゃうかもよ? ぽっと出の美女にとか」 「なに、ぽっと出の美女って」 「真面目な話。だって、陽子がここまでハマってるってことは相当イケメンだろうし、横から来た女にかっさらわれても知らないからね」  栞の言う通り、仕事もできる上に眉目秀麗な漆沢さんはモテる。プライベートのことはさすがにわからないが、社内でも彼を狙っている女子社員は多いらしい。完全に『ラブ』かどうかは置いておいて。  しかしながら、SNSなどを駆使して漆沢さんの交友関係を探ったところ、少なくとも彼がフリーであることはリサーチ済だった。  それにしても、インターネットで検索をかければ、一般人であっても情報が得られるとは、なんて便利な世の中になったのだろう。(多少骨の折れる作業ではあったけれど)文明の利器に感謝していると、栞が水を差すように口を開いた。 「フリーって、本人から聞いたわけじゃないんでしょ?」 「まあ、そうだけど」 「百歩譲って彼女はいなかったとしても、他に女がいてもおかしくないよ」 「女……?」  彼女と女、どう違うのだろうか。首を傾げると、栞は小さくため息をついた。 「遊んでるってこと。モテる男なら周りが放っておかないだろうし、特定の相手がいなくてもセフレくらいはいるかも」 「セ……!?」  セックスフレンド。その名の通り、セックスをするだけのお友達――なんて破廉恥な響き! 「さ、さすがに漆沢さんはそんなことしないよ。優しいし、誠実そうだし」 「仕事上のその人しか見てないでしょ」 「そうだけど……。それにほら、セ……フレなんている人のほうが珍しいんじゃ――」 「いや、私いるけど」 「はい!?」  栞はしれっとカミングアウトをし、何食わぬ顔でグラスを煽る。  彼女に男の影が途切れないなとは思っていたけれど、こんなにはっきりと言われるのは初めてで、開いた口が塞がらない。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1055人が本棚に入れています
本棚に追加