唯一無二の推し

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「陽子は男に幻想を抱き過ぎ。所詮下心の塊なんだから」  栞が言わんとすることはわかる。きっと、盲目的に彼に夢中になっている私に対しての警告だろう。なぜなら、私には恋人がいないから。典型的な彼氏いない歴イコール年齢タイプだ。過去に一度だけ恋をしたことはあるけれど、それがトラウマすぎてもう二度と恋愛はしたくないと思った。  いつまでも遠くから彼を見ているだけの私に、栞もうんざりしているのかもしれない。だけど―― 「……もし相手がいたとしても仕方ないよ。私、漆沢さんとどうこうなりたいとか考えてないから」  漆沢さんには、今みたいにたまに社内で気にかけて、仕事ぶりを褒めてくれたらそれ以上何も望まない。いや、逆に今までアイドルの応援をしてきた私にとっては、十分すぎる。  もちろん彼と仲良くなりたい気持ちがないと言えば嘘になるけれど、恋人になりたいなどと、決して高望みはしない。その辺りの身の程は弁えているつもりだ。  たとえ、漆沢さんが誰かと付き合ったとしても、彼が幸せならばそれでいい。ファンとは推しの幸せを願ってなんぼなのだから。 「そう言ったって、陽子はもう――」 「もう?」 「……何でもない。本当に健気だよね。私が男なら陽子を彼女にしたいかも」 「えっ!」 「いや、やっぱいいや。重そうだし」 「うっ……」  もし私が栞くらいの美人だったら、もっと違う考え方をしたのだろうか。一瞬芽生えた灰色の気持ちの芽を潰すように、手元の焼酎を煽れば、仕事終わりに聞きたくもない耳障りな声が響いた。
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