第1話 何故か失敗作が売れました

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第1話 何故か失敗作が売れました

私、文月魅天(ふみつきみそら)は、高校2年生、若手ラノベ作家になって半年くらい経ったある日、事故で死んでしまった。まぁ、巻き込まれ体質が災いして死んだなんて…。 「若き魂よ、そなたはまだこちらに来てはならぬ。」 「いえ、私もう死んでて、火葬されちゃったの見てからこっち来てるので、帰る場所が…。」 「そうか、ならばそなたは転生したいとは思わぬか?」 「え!?て、転生できるんですか?それなら是非ともお願いします。」 「それでは、ある程度決めておかねばならぬことがある。」 「例えば?」 「そなた、来世ではどのような職に就きたいか希望はあるか?」 「やっぱり、私は来世でも小説やラノベでたくさんの人を笑顔にしたいです。なので、私はもう一度作家を目指します。」 「そうか。なら、人格のみならず、現世の記憶も持って行くがいい。」 「ありがとうございます!」 「さぁ、新たなる英雄よ!まだ見ぬ世界へと羽ばたくのだ!」 そして、私は光に包まれて意識が遠のいていった―。 私が目をさますと、一人の男性の腕の中にいた。きっとこの人が新しいお父さんだろう。 「あらぁ~、起きたの?ミソラ、お母さんですよ~。」 「俺がお父さんだぞ~。」 両親は二人とも優しそう。あの神様に感謝しなくちゃ。 ~3年後~ 「おとうさん、おかあさん。わたし、しょうらいしょうせつかになりたい。だから、いまのうちからいっぱいべんきょうさせて。」 「まぁ。あなた、ミソラがね、今のうちから勉強たくさんしたいですって。」 「俺たちの娘ながら、立派になりそうだ。」 まだ発音に拙さはでるけど、何とか喋れるようになってきたな。たくさん勉強したいのは、同年の子どもたちとあんまり関わらずに済ます為の口実だけど。 そして、あの神様に再び感謝しなくちゃと思ったのは、この世界は魔法やモンスターが存在するということが判明したからだ。もう私は、ただの事故で死ぬわえにはいかない。 もともと巻き込まれ体質だった私は、怪我をしない月なんてなかったが、幼いうちから魔法を習得したことで、そういった不遇な事故を未然に防ぐことができるようになった。 そこから、私の夢は少しルートが変わったわけだ。その夢とは、巻き込まれ体質の私が絶対手にし得なかった境遇、『お金持ちになってスローライフを送る』、というものだ。 前世、私はどうせお金持ちになっても使う前に手元からなくなっちゃうだろうし、巻き込まれ体質でゆっくりとした生活なんて夢のまた夢だと思っていた。だけどあの神様に出会って、この世界に転生したからこそ、こんな夢物語みたいな展開に…。 とりあえず、私は学生時代をトップて駆け抜けることにした。 ~小学園卒業前格闘会にて~ 「あ、あんな華奢な女の子が、ゴリラみたいな大男を一撃で…。」 「もはやあの歳の人間の体から出る魔力量じゃねぇ…。」 私は知っていた。魔術は学び、実用する程に体が蓄積、操作できる魔力量が増えることを。もう対人戦なら誰にも負ける気がしない。 でも、人の嫉妬や恨みは掘るととても深いもので、私は私のアンチから、【魔女】や【魔力災害の権化】などと不名誉な渾名(あだな)を付けられ、多くの人、ましてや教員の方にまで忌み嫌われ、恐れられながらの中学園生活を送った。時には家族や友達が狙われることもあったけど、私はそのあたりの対策には抜かりがなかった。 「おはよう、ミソラちゃん。昨日は守ってくれてありがとう。」 「いやいや、セレンちゃんが狙われたのは私の責任だし、私が起こした問題は私が片付けないと。」 「ミソラちゃんは優しいね。」 「そんなやつの何が優しいものか!!お前も【魔女】の仲間か?」 「おいアンチども。文句があるならこの私、ミソラ本人が直々に相手してやろう。ありがたく思え。」 「ひ、ひぃ!すいませんでしたぁ!!!」 私はこんな感じで私のアンチに狙われた人しか友達がいなかったけど、それでも十分前世よりは学生やってたって感じはしたな。 そして、私がこの世界で一番の理不尽を感じたのは、中学園卒業前格闘会の時だった―。 決勝戦の時、私を支持してくれた友達の座っていた席が、爆破されてしまった。 私はなりふり構わず相手を瞬殺、そして一時的に魔力が枯れ果てるまで、全てを破壊し続けるのかと、思った。 でも、そんな私を止めてくれたのは、瀕死のセレンちゃんだった。 私は、今でもあの時のことは忘れられないし、忘れてはいけないとも思う。 なんやかんやで、ミソラ・グリーク 16歳。優しい編集長さんに誘われ、やっとノベル作家デビューすることになったけど…。 条件は、『自分の中で一番自信のない作品』って。あとから自信作を出せば確実に売れるとか言われたけど、あの人が受け持つ作家は私が初めて…。正直心配だけど、やるしかない。 私が提出した作品「グランド・ラヴ」は、私が前世で没作として発表しなかった作品だけど、編集長さんは、 「こりゃあアタシも読んだことがなくておもしれぇタイプの小説だな。」 なんて、褒めてるのかどうか分からない返事だったし。発売から1週間は家に閉じこもろう。 そして、私が部屋にこもり始めて5日くらいから、お父さんもお母さんもかなりの頻度で私の部屋に来るようになった。でも、いつも冒頭の 「ミソラの作品が…」 で追い返してしまう。とりあえず、1週間経つまであの小説のことは忘れたい。 ~発売から1週間~ 「おはよう。2人とも元気?」 「ミソラ、お前の作品が…」 「またそれ?結局何?」 「お前の作品が飛ぶように売れているらしいじゃないか!」 「え?冗談?」 「ウソなんかじゃないよ。今だってお隣のおじさんが働いてる印刷所がミソラの作品の印刷で持ち切りだとか…。」 「本当に本当なの?」 「本当だよ。」 「じゃあ、編集長さんのところに行ってきます!」 「気を付けるんだよ。」 まさか私が部屋にこもっている間にこんなことになってようとは…。やっぱり、果報は寝て待て、ってことかな? 「編集長さん!私の作品のことって…」 「おめでとう。アタシはアンタみたいな大物の担当をできて良かったぜ。アタシの言ったこと、信じて良かっただろ。まぁ、でもアンタが調子に乗りすぎてると、いつアンタのアンチが乗り込んでくるか分かンねぇから気を付けなよ。」 「ありがとうございます。でも、私にアンチがいることを知ってた上で私を採用したんですか?」 「当ったり前じゃない。これからも応援してるぞ。あと、アタシが印税届けに行くまで、家から出るなよ。」 「どうしてですか?」 「アンタのアンチが金に釣られてよって来るかも知れねぇからな。まぁ、印税届けに行ったら、すぐに夢をかなえて両親の安全も確保しとくんだな。ワープポータルは持ち運べるもんを用意しとく。」 「あの…、どうして家族のことまで…」 「担当の家族だからに決まってるじゃない。」 「そ、そうですか。とりあえず、ありがとうございました。」 「いいよ。アタシもアンタの夢に協力できて嬉しいよ。」 「それでは、また。」 結局土地を遠くの辺境に買えたし、あとは印税が入ってその代金を支払えば…。 遂に叶うんだ、私のスローライフ。 ~2週間後~ 「おい、ミソラ。印税届けに来たぞ。」 「意外と遅かったですね。」 「アンタのアンチを撒くのに時間がかかってな。すぐにこの街を出ろ。」 「わかりました。でも、本当に2000万エセンドなんかもらっていいんですか?金額が王族の月給くらいですけど…。」 「そう細かいことは気にすんなって。」 「お父さん、お母さん。それじゃあ、行ってきます。」 「たまには帰ってきてね。」 「俺たちはずっとミソラを応援してるからな。」 やっと始まる私のスローライフ。さて、まずはその辺で軽い買い物を… え?魔力弾? 危な!何で街中で不意打ち!?まさか…。 「賞金首はあの小娘だ!チンタラしてないでさっさととっ捕まえろ野郎どもぉ!」 「上等だ!」 「おい、あいつ小説の印税もあの袋の中じゃね?おい、あの袋だけは何があっても傷つけるな!」 こうなったら、こっちも戦うしか…。 「『魔力波 稲妻(バアル)』!!!」 「くそ!古代魔法か!ここは一旦引くか…」 「誰が引いていいなんて言った?」 「ひっ…。」 「おい、【魔女】。お前調子乗んなよ。」 「その名前で呼ばれたのも久しぶりだけど、私が調子に乗ってるってのは?」 「たかが作り話ごときで世間の注目集めてんじゃねぇってことだ!」 「お前ら、私を殺してメリットはあるのか?」 「あるさ。目障りなヤツが1人減るからなぁ!お前らもそう思うだろ!」 「ああ、ひよっ子時代からチヤホヤされすぎて世間様の迷惑も分かんねぇ頭のネジが錆びだらけのヤツにはごみ箱行きがお似合いさ!」 「もういい!お前ら、次の日曜に中央決闘場で勝負だ!」 「一人でこの人数相手とか、バカすぎて芝。」 「お前にはお仕置きも#躾け__しつけ__#も両方必要みたいだなぁ!」 「いいよ、何人だろうと相手してやる!」 ああ、早速面倒ごとに巻き込まれた上に自分で話大きくしちゃったよ…。私にスローライフは無理なのかなぁ。 ~当日~ 待て。相手が200人近い?そ、それがどうした。いつも通りやれば…。 「それでは、決戦開始!!」 「『魔力波 (モト)!!』『霊能ノ八 魔軍公爵(グシオン)』!!」 「おい、死の呪いと七十二柱召喚ってやりすぎじゃねぇの!?」 「何やってもいいんでしょ?」 「だったらこっちも一斉攻撃だ!」 「その魔力弾の乱射が一斉攻撃?ウソもほどほどに…」 「ただの乱射だと思うなよ!」 え…?腹撃たれた? 「…っ、ぅぅっ」 「どうだ?痛いか?可哀そうに。これがお前の受けるべき断罪だ!」 「やめなさい。」 「あ?誰だテメェ。」 「俺は宮廷騎士団団長ゼパルだ。俺もこの子のように迫害を受けて生きてきた。ただ、才能はお前らみたいなヤツらを叩き直す為のものだ。お前らの玩具(おもちゃ)になる為のものじゃない。」 「何ごたごたいって…」 え…?一瞬で首を跳ね飛ばした!?一体何が…。 「お前らもこうなりたいか?」 「い、いえ!サーセンした!」 「大丈夫か?ほら、回復薬だ。」 「…はい、大丈夫です。ありがとうございます。」 「俺は、また今回みたいなことがあればすぐに駆け付ける。それじゃあ。」 何だか、スローライフよりも優先したいものが見つかりそう。 続く
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