37人が本棚に入れています
本棚に追加
ひょろ眼鏡さんとの出会い
「では、一週間以内に連絡をさせていただきます。」
ニコリと微笑み、そう告げた面接官の方に深くお辞儀をし、私は部屋を出た。
足早にエレベーターへと足を進めると一階ボタンを押し、扉が閉まるのを待って「はーっ」と深い溜息を吐く
「これは……また落ちたよね……」
現在再就職の活動十連敗中である
もう、落ちるパターンが嫌でも分かってしまっていた。
前職は、小さな会社で事務をしていた。
嫌で辞めた訳ではない。
何時ものように出社をすれば、
そこにあったはずの会社が忽然と消えていたのだった。
経営が傾いていたという噂はあったが、まさか…って思うよね。
夜逃げ……それである。
一人暮らしをしている以上、齧れる脛も無ければ、貯えにそこまで余裕があるわけでもない。けれど……連敗がこうも続けば流石に凹むわけで……。
再び深いため息を吐き、取り合えず目の前にあるコンビニに足を向けた
暖かいコーヒーでも買って、気持ちを切り替えたい、そう思ったからだ。
レジでコーヒー代を支払い、挽きたてのコーヒーが出来るのを待つ
カップに蓋を付けようとしたとき、勢いよく店内に入ってきた学生達。
その一人の大きな鞄が私にぶつかり、カップからコーヒーが大きく揺れ零れた
「あつ……っ!」
カップを持つ手にコーヒーがかかり、思わず声が零れる
不意に背後から腕を捕まれ、驚いて振り返れば、ひょろりと背の高い男性が立っていた。
「火傷ですね……まずは急いで冷やしましょう」
「え?あ……はい……?」
腕を引かれるままにトイレの洗面台へと向かう
男性は蛇口を捻ると、私の手を流水で冷やしはじめた。
水の音をBGMに、鏡越しでその男性をそっと見つめる
背は百九十センチ近くあるだろうか?年齢は三十代前半くらいに見える。
ひょろりと長いイメージで、優し気な整った顔には丸眼鏡。
髪の毛は腰まで長く、ひとつに纏めて括られていた。
きっと世間でいうところの、イケメンという属性に入る人だろう。
「うんうん」と心の中で大きく頷く
しかし……どちらさま?と心の中で大きく首を傾げた
「火傷の赤みは引きましたね。まだ痛みますか?」
「え?あー……少し?」
フム、と考え深げに顎に手をあてた、ひょろ眼鏡さんは「うん」と頷き
再び私の腕を掴むと、スタスタとお店の外へと歩き出した。
「え?あの…?」
困惑気味に声を掛ければ、ひょろ眼鏡さんはにっこりと微笑み
「僕の診療所、直ぐそこですから。念のため治療しておきましょう」
そんな言葉が返ってくる
え?この人医者なの?
いや…そんな事より、なんだこの展開?
初対面にも関わらず、有無を言わせない、圧のかかった笑顔で引かれるままに歩いていく。そして気が付けば、私は見知らぬ診療所の診察室の椅子に座っていたのだった。
「え?何でこうなった?」
最初のコメントを投稿しよう!