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成り行きで二階の宿泊ルームへ泊ることとなり、点野さんに案内されて
部屋の前まで来た。どうやら宿泊ルームは四部屋あるようだ。
「この部屋を使ってね。何か分からない事があったら連絡して下さい」
「はい、ありがとうございます」
点野さんが下へ降りるのを見送って、私は鍵を開け部屋へ入った。
部屋の明かりを点けると、視界に入ったのは北欧風の家具が揃ったとても可愛い部屋で、思わずテンションが上がりキョロキョロと部屋の中を見渡す。
テーブル、ベッド、明かり、どれもセンスの良いものばかりだ。
お風呂とトイレも完備されていた。
テーブルに荷物を置くと、そのまま窓際へと移動する
閉じられたカーテンを開けると、キラキラ光る夜景が眼下に広がっていた。
いつまでも眺めていたいくらいの夜景だが、朝から慣れない事の緊張の疲れとアルコールが程よく回り先程から睡魔に襲われている。
時計の針を見つめると、時刻はもう一二時を回っていた。
シャワーを浴びて、もう寝よう……。
何だか長く、不思議な一日だった。
あのまま寝落ちした先生は、羽生さんに隣の部屋まで運ばれていたが大丈夫だろうか?まぁ、羽生さんもお医者様らしいので大丈夫だと信じよう。
若干の心配をしつつ、いつの間にか深い眠りに私は落ちていた……。
◇◇◇
飲みの場所を二階の部屋に移し、羽生と点野は涼しい顔でグラスを傾けていた。この二人は相当酒に強いようだ。
それとは真逆に、東地はベッドにうつ伏せたまま、ほぼ屍のような状態だっだ。
「なぁ、点野。あのお嬢どう思う?」
「古川さんですか?どう…とは?」
「コイツにとって悪か善かって事だ」
羽生の言うコイツとは、ベッドの上で屍と化している東地の事だ。
こう見えて、東地の事を心配しているのだ。
点野は苦笑いを浮かべ、そしてポツリと呟いた。
「そういう意味でしたら善なのでしょうね…。女性特有の執着めいた糸も絡んではいないし、それに本人の自覚が無いようですが、東地には良い盾になってくれる方だと思いますよ」
「盾……なるほどなぁ。」
「性格的にも職業的にも執着されやすい東地には、彼女は良いパートナーになると思います。けれど、その矛先が彼女に向けられた時、少々やっかいになるけどね」
点野のその言葉を聞き羽生は眉間に皺を寄せる
点野は溜息を吐き言葉を続けた。
「こいつの性格は厄介だからなぁ…気が付けば人の念に雁字搦めだ」
「優しさ故に、ですからね。ですが珍しく今日は憑いていませんでした。一緒にいた彼女のお陰でしょうか。」
「なるほど、こりゃ本当に盾だなぁ。」
「ただ、このまま諦めるとは思いませんが…」
ガタガタと風が窓を揺らす。少し風が出てきたようだ。
窓の外に視線を移す点野の瞳には鋭い光が宿っている。
羽生は東地を見つめ、大きな溜息を吐いた。
◇◇◇
シャラーーーーーーーン
大きく鈴の音が聞こえたと思ったら、真っ暗な闇の中に私は一人立っていた。
何故こんな所にいるんだろう?不安になり、周りを見渡す。
ゆらりゆらり
小さく灯る明かりが見えて、私は急いで明かりに向かって足を進めた。
不安で一秒でも早く、この闇から抜けたかったからだ……。
しかし、明かりに近づくと、違和感を感じ思わず足を止める
それは明かりではなく
人型がぽうっと薄く光り、ゆらりゆらりと宙に浮かんでいでいたからだ。
「………なんだろう?」
思わず言葉を漏らす
揺れていた人型が動きを止め、ゆっくりと振り向くように回転した
パチリ
人形の中に現れた目が開き私を見つめた
「ミ・ツ・ケ・タ」
その言葉が闇の中に響き渡り
大きく膨らむと、私を飲み込むように襲い掛かってきた
「怖い!」
私は動けないままギュツと強く目を閉じる
突然、私のポケットから眩い光が発せられ、闇の中で光が広がった
「アアアアア・・・ジャマヲスルナァァァァァァァ・・・・」
人型は光に溶けて散霧し消えていった
「……………さん」
「…………古川さん」
え?
名前を呼ばれて覚醒する
目を開けると東地先生の顔がドアップで目の前にあった
「うひゃ」
「うひゃ…って。大丈夫ですか?魘されていたようですが」
「え…あ…何か嫌な夢を見ていたようで……」
「無事で良かったです……」
東地先生が安心した顔で、そう呟いた。
私、夢で魘されて叫び声でも上げたのだろうか?これはハズカシイ
ふと東地先生の背後に視線を向けると、点野さんや羽生さんまでもがいた。
「す…すみません!夢で魘されて声あげちゃいましたか?
大変ご迷惑お掛けしました。気にせず寝てください!」
思わず顔を赤く染め狼狽える私に、点野さんがそっと私の手を握った。
「これは?」
「え?」
点野さんの問いに一瞬意味が分からず、握られた手を見つめる
あれ?何でだろう?私の手にお守り製作第一号が握られていた。
「これは、私が仕事で作ったお守りですね。何で持っているんですかね?」
小首を傾げながら思わず聞き返すと、ブハッという羽生さんの笑い声が聞こえた。「なるほどなぁー、盾に違いねーわ。ハハハハ」と意味不明な言葉を言いながら私の頭を豪快に撫でまわす。ちょっと止めてもらっていいですか?
というか、乙女の寝室に野郎三人で無断侵入しないでいただきたい。
「あー…うん、寝ぼけてたのかな?皆心配して勝手に部屋に入ってごめんね。
それより眠れそうですか?」
苦笑いを浮かべながら、申し訳なさそうに点野さんが尋ねる。
私はコクリと頷き「あ、はい。すみません。皆さんもゆっくり寝てください」
と言葉を返した。
「何なら、俺が添い寝してやろうかぁ?」
「羽生君、タコ殴りにしますよ?」
「サービストークだろう、心の狭ぇ男だなぁ…」
「全然サービスになっていませんよ!セクハラトークです。」
東地先生と羽生さんの会話に思わず苦笑いを浮かべる。
点野さんが、さり気なく私の傍まで来ると何故か私をギュと抱きしめた。
「ほわわわわわ!点野さん?」
「フフ、良く眠れる様におまじない。」
「いや……逆に心拍数上がって眠れなさそうですけど?」
「そうですよ!点野君のムッツリ!セクハラですよ!」
私の言葉に加勢するように東地先生がぷんすこ怒りながら言葉を続けた。
そういえば、酔い潰れていたはずなのに、先生復活したのか。驚きだ。
「まぁまぁ。酔っぱらいのしたことだから大目に見て。
じゃ、古川さん、ゆっくり休んでね」
点野さんは笑顔でそう言いながら、東地先生と羽生さんを引きずり部屋を出て行った。点野さんが最強伝説、ここに生れりかな?
静かになった部屋の中、フーと一つ大きな溜息を吐く。
嫌な夢を見ていた気もするけれど、気持ちは落ち着いている。
いつの間にか、手に握っていたお守りをベッドサイドに置き、ベッドへ横になると目を閉じた。
◇◇◇
部屋の外に出た東地は点野に声を掛けた
その顔には、先程まで見せていた、おっとりとした雰囲気は消え去っていた。
「点野君」
「ああ……切っといたよ。そもそも古川さんがその念をほとんど断ち切ってくれてたけどね。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「だが……お嬢へ矛先を向けてくるとはなぁ…。」
「あれは、執着の塊ですからね…。邪魔者は排除したいのでしょう」
三人は窓の外に目を向ける
窓の下にビリビリに裂かれた人型が落ちていた。
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