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先生の車に乗り、家路に向かっている
そう言えば、今朝も先生に送って貰ったんだったな……色々あり過ぎて何だか遠い昔の出来事の様だ……
「今日は色々大変でしたね。疲れたでしょう?」
「それを言うなら、そっくりそのまま先生にその言葉を返しますね。本業に副業……過労死しちゃいますよ?」
本当に心から心配しているんだぞ、という思いを乗せて言葉を返せば
苦笑いを浮かべながら「善処します」と先生が呟いた。
不意に先生の携帯が鳴り、路肩に車が停まる
携帯で通話を始めた先生は、私の知らない顔になった……。
これが仕事モードの先生なんだろうな……私はオフモードの先生しか知らないから、勝手に心配したりしてたけれど、それは先生に失礼だったかもしれない……今の先生は、とても頼りになる、そんなオーラを醸し出していた……。
「すみません。仕事の電話でした」
通話を終えて携帯をポケットにしまった先生が、苦笑いを浮かべながら
私に話しかけてくる。その顔はオフモードへと切り替わっていた。
「いえ、先生のビジネスモード……初めて見た気がします。」
「ビジネスモード?」
先生がそう呟いて小首を傾げる、このあざとさは何モードだ?
「先生といるときは大体ほんわかイメージだったので、少し新鮮でした」
「ほんわか……ですか。なるほどぉ」
先生がそう呟いて、何やら考え深げな表情へと変わった。
「でもそれは古川さんだからかもしれませんね…気が置けない相手だからですよ」
「んんっ!」
「東地、そういう所って言いたいんですね。ははは」
油断すると、この人はこういう台詞をサラリと吐き出すから質が悪い
私はケホケホと咽た喉を、持っていた水で潤した。
「……色々心配してくれてるんですよね、ありがとうございます。
でも大丈夫。こう見えて、やるときはやる男ですから、僕」
私の心配が伝わっていたのだろう…先生が優しく微笑み安心できる言葉をくれる。
先生の大丈夫という言葉は、素直に頷ける魔法の言葉だ
心の奥のモヤがスッつと晴れていき、漠然とした不安感は薄れていった……。
「……明日のお祓い、頑張って下さいね。でも正直、無理はしてほしく無いです。但馬さんの呪いは厄介だって聞いてるから……」
「そうですねぇ……確かに彼の呪いは手古摺りますね。かなり体力も消費しますから、終わったら古川さん、僕のエナジードリンク代わりに、また抱き枕になって下さいね」
「東地、そういうところ!」
いたずらっ子のような顔でそう呟く先生の頭にチョップを落とす
先生はお腹を抱えながら笑っていた。
「さて、行きますか。明日の用意もありますし。」
「はい……宜しくお願いします」
車は再び夜の街を走り出す
「明日、終わったら連絡しますね」と先生は微笑み
マンションの前で私を下ろして去って行った……。
「明日……どうか宮司さんも、先生も無事でありますよう…」
◇◇◇◇
浅い眠りで若干寝不足気味の朝、いつものように会社へ行けば、いつもより早く社長が会社へ出勤していた。
東地先生が大丈夫と言ってくれたものの、やはり心配なんだろう……。
眠れなかったのかな…?
「社長、おはようございます。早いですね」
「ああ、おはようさん……やっぱ心配であまり眠れなくてなぁ……浅葱さんを信用して無いわけじゃないんだ。ただ無事な顔を見るまでは、やっぱりな…」
そう呟く社長の顔には、薄く隈が出来ていた
「そうですね、わかります。私も無事に終わるまでは、東地先生も宮司さんも心配ですから」
「だよなぁ……んじゃ行くか」
「え?何処に?」
社長の言葉に、思わずキョトンとした顔で問い返してしまう
社長はニカリと微笑み、「松川神社」と呟いた。
「柏原さんも心配で仕事に手が付かないだろう、それに連絡があれば直ぐに病院へ動けるからなぁ」
「えーっと……頷きたいのは山々ですが、お仕事は?」
「神社で作れば問題ねーだろう?まぁ……表向きな?」
親指を立てて笑う社長に、思わず苦笑いを浮かべてしまう
だが、確かに今日はソワソワして仕事に身が入らないのは確かだ……。
「そういう事なら、ハイ、これね」
事務所に入って来た奥様が、製作キットを箱に入れて、手渡してくれた。
手際が良いな!
「表向きで渡すだけだから、優先するべきはこっちじゃ無いからね」
「ありがとうございます」
本当に良いご夫婦だと思う。
こんな素敵な会社とご縁が頂けたことに、心から感謝をした
「いってらっしゃい。柏原さんに宜しくね」
奥様が手を振りお見送りをしてくれる
軽バンに乗り込んだ私と社長は、神社へと向かうのだった……。
◇◇◇◇
病院の玄関口に金髪の男性が立っている
東地はその男性に近づき、ニコリと笑顔を向けた
「おはようございます、羽生君。」
「おう、おはようさん。早朝からすまねぁなぁ」
吸っていた煙草を携帯灰皿に入れて、羽生は東地に笑顔を向けた。
「松川さんのご容態はどうですか?」
「ああ、落ち着いている、結界が効いてるんだろうな」
「そうですか、良かった……」
東地はそう呟き、小さく溜息を吐いた。
昨日病院に訪れた時、他からの介入が無いように結界を張っていたのだ。
一時的なモノではあるが、効果があった事に東地は安堵した。
「病院側との話し合いと、人払いは出来ている。もうすぐ点野も到着するそうだ」
「そうですか、ありがとうございます」
「点野を呼ぶって事は……厄介なのか?」
「……そうですね……保険と思っていただければ……彼の呪いは一筋縄ではいきませんので……」
「但馬のクソ野郎…一度締めてやらねーとな……」
「まぁまぁ……羽生君に締められたら彼死んじゃいます……」
羽生と東地はエレベーターで移動する
最上階の奥の特別室の前に面会謝絶の札がかかっていた
「さて、頑張りますか」
東地は結界の張った部屋のドアに手を掛けた
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