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再開
「採用させて貰うよ。来週の月曜日から来れるか?」
「はい。大丈夫です!来週からよろしくお願いいたします」
手を組みにっこりと微笑んでくれたのは、町で小さな会社を経営されている社長さん。私は元気に返事をしてペコリと頭を下げた。
この会社は主に、神社仏閣などで販売されているお守りの製造卸をしている会社だ。私は事務としてではなく、作る方に興味が沸き、面接を受けたのだった。六十代くらいの恰幅のいい、とても気のよさそうな社長さんは、私が志望動機でもある神社仏閣巡りが好きだと話せば、面接から脱線して、今まで参拝した神社や仏閣で好きなところは何処どこ、などなど……そちらに話がシフトチェンジし盛り上がってしまった。
で、肝心の会社はというと、従業員は、社長と奥様。そしてパートのおばさま方が数人。お守り作りの見学をしがてら、私もおばさま方から教えてもらい一つ作らせてもらったのだが、本当に楽しかった。
そして可愛い鈴の付いたお守りは、製作第一号記念としてプレゼントして貰えたのだった。
ハンドメイドは好きだ。だけど、それが仕事に繋がるとは思っていなかった。
良縁に恵まれた事に感謝しつつ、私は明るい気持ちで会社を後にした。
思えば、東地先生との出会いがターニングポイントだったのだと思う。
どんな仕事がしたいのか……じっくり自分と向き合い今回の面接は挑んだ。
絶対採用される!そんな意気込みで。先日教えてもらった引き寄せというやつだ。
「東地先生に会いたいな……。」
会って就職先が決まった報告もしたい。
時計を見つめると時刻は十四時を少し回ったところ。
クリニックも休憩時間ではないかな?と、ふと考えた。
◇◇◇◇
電車を乗り継ぎ、来てしまった…。
駅前の寂れた商店街の中を記憶を辿り歩く。
その商店街の外れに、先生のクリニックはあるのだ。
見えてきた、昔ながらの懐かしい建物に心が揺れる。
私は東地クリニックと書かれた入口の前で、服装を整え、やや緊張しながらドアを開けた。
キィー
古い木製のドアが音を立てて開く
「こんにちは。」
声を掛けるが反応は無い。
午前の診療時間は終わってるので、院内は静寂に包まれていた。
「あれ?先生いないのかな?」
少し不安に思い、再び声をかけようと試みる
突然、部屋の奥から「うわ……あちち!」という声とカランカランという甲高い音が大きく響きわたった。
「え?どうした?え?」
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