解除

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宮司さんのお祓いが成功したと連絡が入り、社長の車で私達は病院へと向かっていた。柏原さんは心から安堵の表情を浮かべて涙ぐんでいる、社長もほっとした表情を浮かべていた。 勿論、私も嬉しい……先生も宮司さんも無事だったのだから……。 けれど、気持ちがスッキリしきれない部分がある。この原因は、但馬さんにあるのかもしれない……。 自分に返ってくる呪詛……そんなリスクを冒してまで、何故依頼を引き受けるんだろうか?詮索するなと言われたが……知ってしまった以上気にはなってしまうんだ……。 「但馬さんって、よく神社で見かけますけど、ご近所に住まわれてるんですか?」 柏原さんにた尋ねれば、「そうね、近所かは知らないけれど、数年前からは頻繁に来るようになったわね」と話してくれた。 「但馬って……例の呪術師か?来てたのか?」 「あ……はい。松川神社で高確率で会いますよ。社長も顔は知ってます、宮司さんが倒れた時にいた男性ですよ」 「ああ!あの若いやつか!知っていれば怒鳴ってやったのになぁ……」 社長は苦虫を嚙み潰したようにそう呟いた。 病院に到着し、私達は最上階の特別室へと向かう、エレベーターの扉が開くと顔見知りの面々がそこにいた。東地先生、点野さん、羽生さんの三人だ。 東地先生はソファーに腰かけ缶コーヒーを飲んでいる、その表情はやや疲れた顔をしていた。 「浅葱さん、松川は?」 社長が先生に駆け寄り安否を尋ねる。先生は立ち上がると、ニコリと微笑み「大丈夫ですよ」と言葉を返してくれた。 「先程意識を取り戻したから、もう大丈夫だ。数日は様子見で入院するが、特に異常は無いから安心してくれ。中に入って大丈夫だぜ」 先生の横から羽生さんが社長にそう声を掛ける、社長は頷き特別室のドアを開けると、飛び込むように中へ入っていった。 「柏原さん、あんたも疲れただろう、松川さんに声かけてやりな?」 「そうね……羽生君ありがとう……だけどその前に……」 柏原さんがそう呟くと、東地先生の前まで移動する 「本当にありがとう……感謝しても感謝しきれないくらいよ」と声をかけ、深々とお辞儀をした。 「いえ…お祓い出来て良かったです。お役に立てて良かった」と優しく微笑み柏原さんに病室に入るよう、そっと背中を押した。 病室の中から社長の少し大きめの声が聞こえる 病室をそっと覗けば、宮司さんに抱き着いてる社長と、困惑気味の表情を受かべている宮司さんの姿が見えた。 「良かったですね……」 頭の上から先生の声がする。 顔を上げれば、東地先生が優しく微笑んでいた 「先生……疲れたでしょう?」 「少しね?でも古川さんの顔を見たら疲れが吹き飛びました。ふふ」 「「東地、そういうところ」」 私の声と、点野さんの声がリンクして、先生がフフッと声を出して笑った。 ふと羽生さんと目が合い、先程のやり取りを思い出す 「……もしかして羽生さん、この病院の医者なんですか?というか宮司さんと柏原さんとも知り合いだったんですね……」 「口から酒を吹きかける、外科医じゃなくて悪かったなぁ。ハハハ」 いつぞやの会話を思い出し、羽生さんが意地悪く笑う。 先生の言っていた友人で松川さんと知り合いの医者って羽生さんの事だったんだ……。 「古川さん」 不意に名前を呼ばれ振り向くと、点野さんが笑顔で手招きをしている 何だろう?と点野さんの前まで移動すれば、何故か腕を捕まれた。 「点野さん、お疲れ様でした。先生のサポートだったんですよね?」 「うん、それは良いんだけど…最近厄介事に巻き込まれてるよね?」 厄介事?はて、何の事だろう……? 点野さんの言葉を復唱して小首を傾げる 「なるほど……自覚無しか。」そう呟いた点野さんが、突然私を抱きしめた。 「ふぉぉぉぉぉ?点野さん?」 「うん、少し黙ってて。今縁切ってるから」 「え?誰との?」 尋ねるが返事は無い。 逆らうと何だか怖いので、大人しく従う事にした…。 「点野君……僕との縁まで切らないでくださいよ?」 少し拗ね気味な先生の声が背後から聞こえる 「ついでにそれも切っておこうか」と点野さんが呟いた事は、聞かなかった事にしよう……。 「ハイ、終わり」 点野さんが手を緩め私を解放する。 クエスチョンマークを浮かべたまま、点野さんの顔を見詰めれば、いつになく真剣な顔をしていた。 「但馬と最近接触が多い?僕としては関わって欲しくないな」 「え……何でわかるんですか?」 「縁がね…強くなりかけていたから、切っておいたよ。下手をすれば、古川さんに災いが降りかかるからね」 「それって……私に呪いが降りかかるって事ですか?」 「今のままなら……確実にね」 その言葉に心が粟立つ、そんな私の不安を吹き飛ばすように、先生が助け舟を出してくれた。 「点野君は、古川さんの事を心配してくれてるんですよ。彼との縁も切ってくれましたし、なるべく関わらないでいれば大丈夫ですよ。ね? もし、災いが降りかかって来ても、その時は僕がお祓いしますから、あまり深く考え込まないで下さいね」 「はい……わかりました。ありがとうございます」 私は、点野さんと先生にお辞儀をした ◇◇◇◇ 先生と点野さんは、この後仕事があるとの事で、病院の玄関先でお見送りをする。一緒にお見送りした社長と柏原さんは、何度も先生にお礼の言葉を述べていた。 「じゃ、古川さん。また連絡しますね」 「はい、ゆっくり体を休めて体力を回復してくださいね。点野さんもお疲れ様でした」 「うん。またね」 先生と点野さんは駐車場に歩き出す 社長は受付で手続きを済ませてくるから待っててくれと言葉を残し、柏原さんと院内に戻っていった。 「じゃー俺も仕事に戻るかー」 そう呟いて踵を返した羽生さんに声をかける 振り向いた羽生さんは「ん?」という視線を私に向けた。 「あの……お聞きしてもいいですか?但馬さんの事なんですけれど……」 「……さっき点野に言われた事、もう忘れたのか?」 羽生さんが、方眉を上げて私を見下ろす 私は羽生さんを真っすぐ見つめながら「忘れていませんよ」と言葉を返した 「なら……なんだ?」 「……呪術師に返った呪詛って……お祓いできないんですか?但馬さんが…」 「ストップ。但馬が、お前さんに泣きついたのか?」 「…それは違います。」 「なら、余計な事に首を突っ込むな。俺の意見は点野と同じだ」 「………」 「但馬が大事で、自分の命と引き換えてでも、助けたいって思うか?」 「………」 「そこまで思う相手じゃねーんなら、猶更だ。半端な優しさは身を亡ぼすぜ?東地を悲しませるなよ?」 羽生さんに真剣な表情でそう言われれば、ぐうの音も出ない。 前にも但馬さんに、同じような事を言われたじゃないか……。 覚悟も無いなら、余計な詮索も同情もするなって事なんだ……。 我ながら、成長しなさ過ぎて情けない気持ちで一杯になった。 不意にクシャリと頭を撫でられ、顔をあげる そこには苦笑いを浮かべた羽生さんの顔があった 「なんて顔してんだよ。怒ってるわけじゃねーんだ、しょげるな。 お前さんの優しい部分は良い事だ。そこは誇れ。 ただ、危ういから俺や、点野や、東地も、心配してるんだ。皆、お前さんが大事なんだよ。傷ついて欲しくないから、キツメの事を言うんだ…。」 「……はい」 いつも意地悪なくせに、優しさを直球で見せられると、人は弱い。 泣きそうな顔で私はコクリと頷いた ◇◇◇◇ 日も落ちて、院内がシーンと静まり返ってる時間帯 最上階の特別室の扉を開けるものがいた 「…誰だ?」 うとうとしていた松川が、うっすらと目を開ける 扉の前に花を抱えた但馬が立っていた。 「涼太郎か?……どうした?」 「…生きてた?」 「……おかげさまでな」 但馬はベッドに近寄ると傍の椅子に腰かけた 「で…どうしたんだ?」 「謝りたくてさ……」 「今回の事は、狙ったわけじゃないだろう」 「でも、結果的にはそうなったから……」 「そうか……じゃ謝罪を受け入れようか」 松川は力なく笑うと但馬は薄く微笑んだ 「…まだ、復讐は諦めていないのか?」 「諦めるくらいなら、こんなシンドイ思いしてねーっての」 「…だいぶ瘴気に侵されてるな…」 「まぁな…もうすぐ完成するよ。俺が死んだら念仏でも唱えてやって」 「…それは専門外なんだがな…」 但馬はその言葉にハハハと笑う 「じゃーな」そう呟き、花をテーブルに置くと部屋を出て行った…。
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