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先生が宮司さんのお祓いをした日から数日が過ぎていた……。
いつも通りの日常に戻り、職場と家を往復する日々の繰り返し
相変わらず満員電車はメンタルが削られるけれど、以前のように恨み節を唱えることはなくなった……。
うっかり出してしまった言霊が、誰かへの呪いになっては大変だ……。
そんな風に考え方が変わるほど、宮司さんの一件は、私の中では大きな出来事だったのだ……。
あれから先生とも会っていないが、但馬さんとも遭遇してはいない……。
点野さんの縁切りの効果だろうか?
え?本当に、先生との縁まで切ったの?
いや、まさかね……そんな事を悶々と考えつつお守りを作っていたら、
社長が作業場に顔を出して「おーい、古川ー」と私の名前を呼んだ。
「はい?どうしました?」
作業の手を止め、社長の傍まで移動する
社長は腰に手を当て嬉しそうに私に告げた。
「今日、松川が退院するそうだ。病院に迎えに行くが、一緒にくるか?」
「あれ?明日って言ってませんでした?」
「もう元気だと、病院にごねたらしいなー。祝詞を上げないと死んでしまうとか言ってな……。」
いやいやいや…その祝詞で呪詛されて、死にかけていたんですが?
神様ガチ勢ならば仕方ないか…うむ。
「なるほど、了解です。ご一緒して良いなら是非」
◇◇◇◇
社長の運転する車で、松川神社に向かい柏原さんを乗せる
その流れで、病院へと向かった。
そういえば……先日は羽生さんの前で泣きそうになってしまった……。
何となく顔を合わせにくい……というか、なるべくなら会いたくない……
そんな祈る気持ちで窓の外を見詰めれば、病院の玄関口が見えてきた。
車を駐車場に停めて、院内に入れば、多くの患者で賑わっている。
ホール奥のエレベーターに乗り込み最上階を目指ぜば、
やがてエレベーターはチンと音を鳴らし、扉が開いた
「松川ー。迎えに来たぞ」
社長が特別室の扉を開け元気に声を掛ける。
身支度を済ませた松川さんが、椅子に腰かけて待っていた。
そしてその横に、本日会いたくないで賞ナンバーワンの羽生さんも立っていたのだった…。
「すまないな。世話をかける」
「何言ってるんだ、荷物はそれだけか?」
「ああ。」
社長が宮司さんに尋ね、ベッド横の荷物を手に持つ。手伝おうと手を伸ばした荷物は、柏原さんがヒョイと先に掴んでしまった。
「私はこのまま退院手続きをしてくるから、古川さんは松川さんと待っててくれる?荷物もついでだから持っていくわね」
「柏原さんのいう通りだ。少し待っててくれ。先に車に運んでくるな」
「あ…え?」と、もごもご話しているうちに、社長と柏原さんはエレベーターで下へ降りて行った。
うわー……まじか……。
ポツリと残され、佇む私。背後には、宮司さんと羽生さん。
気まずい……そう思いつつチラリとベッド横に視線を向ければ、花瓶に花が飾られている事に気づき、宮司さんに声をかけた。
「宮司さん、花瓶のお花どうしましょう?」
「ああ、まだ花が元気だから片付けられなくてね。どうしようかと悩んでいたところなんだ」
「花?誰が持ってきたんだ?」
羽生さんの質問に、宮司さんは薄く微笑み呟いた。
「……涼太郎がね……謝りに来て置いていったんだ」
「涼太郎?但馬さん、ここに来たんですか?」
「古川さん、涼太郎と知り合いかい?」
宮司さんのその言葉に反応して、思わず聞き返してしまう
宮司さんが意外そうにそう訊ねたので「何度かお会いしたことあります」
と返事を返し、チラリと羽生さんに視線を向ければ、方眉を上げて半目状態の顔がそこにあった…。
「そうか…。涼太郎は昔から知っている子でね……あの子の姉が、あんな亡くなり方をしてからずっと気にかけていたんだ……」
宮司さんが寂し気にポツリと呟いた言葉には、とても気になるワードが含まれている。え?お姉さんが亡くなってる…?あんな…とは?
思わず聞きかえそうとしたタイミングで「…古川」と羽生さんに名前を呼ばれた。
「はい、集合」
「え?」
羽生さんが張り付けた笑顔で、チョイチョイと指招きする
うわ……怖っ!集合したくないしたくない……
じりじりと後退して扉へ足を向ければ、羽生さんが、ガンと扉を蹴飛ばしスライド式のドアがスーっと静かに閉じた。
「羽生君?」
宮司さんがキョトンとした顔で羽生さんを見つめる
宮司さん気づいて!ここに金髪の悪魔がいますよ!
「ああ、そうだ!宮司さん、悪霊退散の祝詞をあげてもらえませんかね?」
「誰が悪霊だぁ。ちょっとこっち来い」
羽生さんに首根っこを掴まれて強制的に集合させられてしまった
「松川さん、こいつが但馬の事を根掘り葉掘り聞いてきたら、全力でシカとしてくれ」
「え?あ……ああ…?」
羽生さんは宮司さんに釘を刺すが、宮司さんはイマイチ状況が良くわかってはいないようで、小首を傾げていた。
「古川…いいか、お前さんがアイツを意識すれば引き寄せが発動するんだよ。引き寄せるな!断ち切れ!返事は!」
「は……はい!」
「聞くな!関わるな!考えるな!返事は!」
「は……はいいっ!」
特別室に体育会系並みの掛け合いが響いている
鬼コーチの羽生さんがオッケーと言うまでそれは続き、帰ってきた社長と柏原さんがキョトンとした顔で私と羽生さんを見ていた。
「良し。約束破ったら、俺と点野と東地と三人で説教三時間コースだ」
「うげぇ……。」
「嫌なら関わるな。シンプルな事だろう」
「そうですね…聞かず考えず関わらず…で頑張ります」
「本当にそうしてくれると助かるんだがな……」
羽生さんはそう呟き、はぁーっと深いため息を吐いた
◇◇◇◇
「じゃぁ、世話になったね。羽生君」
「ああ、無茶な依頼は断れよ」
「そうだね、暫くはそうするよ」
宮司さんは苦笑いを浮かべ、羽生さんに言葉を返す
玄関前まで見送ってくれた羽生さんにお辞儀をして駐車場へ向かった。
車に乗り込み神社へ向かって車は走り出す
外の景色を見つめながら、宮司さんはほっとした表情を浮かべていた
羽生さんには考えるなと言われたんだけれど、先ほどの宮司さんの言葉が
気になっている……。但馬さんのお姉さんが亡くなっているという事実と
その亡くなり方…そして呪物集めに呪詛…もしかしたらそれはリンクしているんじゃ無いだろうか…?
そんな事を考えていたら松川神社の鳥居が見えてきた。
皆本当に無事に帰ってきたんだな…と心から安堵した。
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