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今日は気晴らしに、友人の厚美と食事をする約束をしている 旅行土産を渡したいと昨夜連絡を貰ったのだけれど、丁度いいタイミングだった。私も会って色々話したいと思っていたからだ……。 いつものように駅前で待ち合わせをすれば、見慣れた車が駅のロータリーに入ってくる。私は手を上げ、停まった車に乗り込んだ。 「お疲れさま。北海道楽しかった?」 「うん、今が良い季節だからねー。仕事を放っておいて勝手に動き回りたい衝動に駆られたわ」 「衝動だけで済んで良かったね」 私の台詞を聞いて、厚美は声を出して笑った。 「さて、出発しますか。今日は隠れ家的レストランだよ」 「いつもの事ながら、歩くグルメ雑誌だね」 「まー、職業柄ねー」 いつも珍しいお店へ連れてってくれる友人は本当に頼りになる。 いつかグルメ雑誌を出版してくれないだろうか?全力で応援するのに。 そんな事を考えていたら、車は目的地を目指し走り出した。 ◇◇◇◇ 人通りの多い商店街を少し離れ、静かな通りにあるビルの地下へと降りていくと、「魂の帰還」というスピリチュアルっぽい名前のお店が出現した。 少し重い木製のドアを開けると、そこには海が一面に広がっていた……。 「うわぁ…海だ」 思わず声が出ちゃうくらい、海だ。正確に言えば映像なんだけれど。 白い壁にプロジェクションマッピングで投影された海の空間が広がっている。BGMは波の音だ。素晴らしき癒しの空間である。 「凄いね!」 「でしょー?先日会社の友人に連れて来てもらってさ、絶対水姫を連れてきてあげようーって思ってたんだ」 「ありがとー!何か感動してる!癒される!」 「そっか!それなら良かった」 厚美は満足気に微笑むと、店員さんに予約していた旨を伝え、私達は席へと案内された。 「足元にも波があるよ」 「面白いよねー。本当に海に足をつけてるみたいよね」 寄せては返す波を見つめながら、この空間に癒されている いつの間にか溜まっていた疲れも波に流されて消えていった……。 魂の帰還かぁ…本当に素敵なコンセプトのお店だね。絶対また来よう。 「そういえば、昨日話してた聞いて欲しい話って?」 お酒を飲みながら厚美が尋ねてくる、私はグラスを置き 先日あった宮司さんの一件を話した。 「…なるほど、大変だったね、皆無事で良かったじゃない」 「うん…本当にそう思う…」 「で、水姫は但馬さんが気になるんだ?」 「え?」 「悶々してるって事は、何とかしてあげたいって思ってるからだよね?でも自分では何も出来ないし、マスターや先生などからは関わるなと釘を刺されてるから頼れないって思ってる……」 その通りだ。厚美のその言葉にコクリと頷いた。 「恋愛感情じゃないの……ただ、顔見知りになった以上、苦しい思いをしてるなら、それを楽にしてあげれないかな…って思ってしまって。 けど、私にはどうにか出来る力も無いし、誰かに頼らなければならなくなる……そうなると、また先生や他の人を危険に巻き込む可能性もあるわけで…そう考えるとね……」 自分の思いを正直に言葉にしてみる、私の言葉を黙って聞いていた厚美は 小さく溜息をつき苦笑いを浮かべた。 「水姫は昔からそうよね……野良猫を放っておけないタイプ……。 でもこの一件を聞く限り、猫じゃなくライオンや熊だからね?本気であんたの命に係わるよ?」 「命かぁ……」 私はポツリ呟きながら、海と同じ色のお酒を口に運んだ 「ちょ…まじでー!」 不意に隣の席の女の子が、黄色い声をあげる 何だろうと視線を向けると、三人組の女の子達が携帯を見つめながら楽し気にはしゃいでいた。 「ねぇ、この人有名なんでしょ?『恋も恨みも叶えます』だってー」 「ああ、知ってる。会社の子が依頼したって話聞いたよ。直ぐに願いが叶ったって言ってるの聞いた事ある」 女の子達はどうやら何処かの会社勤めらしい とても気になる話題をしている…もしや但馬さんの話題じゃないだろうか…? 「へー、効果あるんなら、私もお願いしようかなー?」 「何をお願いするの?」 「勿論。憧れの先輩とカップルになれますようにって」 「うわー、先輩超ー迷惑ー」 きゃっきゃっと盛り上がってる女の子二人に、静観していた女の子がポツリと呟いた 「やめた方がいいよ。等価交換ってのがあるらしいし」 「等価交換?」 「願い事を叶える為に、何かと交換するってこと。命とられたらどうするの?それに呪い返しってのもあるらしいよ」 女の子のその言葉に「何それ怖いー!」と声をあげて二人は怖がっていた。 止めてくれる優しい友人がいて良かったね……下手をすれば宮司さんの時のようになりかねないのだから……。 「あ、呪い返しで思い出したんだけど、何年か前に呪術師バラバラ殺人って事件があったよね。どうやら殺された理由が呪い返しらしいよ」 「あ、聞いたことある。確か若い女性の呪術師だったよね?怨恨だって噂もあったけど、犯人は未だに捕まっていないんだって……」 呪術師のバラバラ殺人事件……? そのワードに思わず視線を向ける、同時にメニューでコツリと頭を小突かれた 「もしかして、調べようとか考えてる?」 「え?」 厚美がジトリとした目で私を見つめる 何を言いたいか直ぐに分かり「えーっと…」と呟き頬を掻いた 「まぁ…水姫はそういう性格よね。止めても無駄だって知ってる。 だけど好奇心は身を滅ぼすから、ほどほどにしなさいよ? それから何か困った事態になったら、あんたが信頼している東地さんとか、マスターさんに直ぐに相談すること。絶対だからね?」 「…うん」 私はコクリと頷くと、厚美は深い深い溜息を吐いた。 ◇◇◇◇ 厚美に送って貰い自宅に戻った私は、真っすぐにパソコンの前まで移動した。 先ほど隣の女の子達が話していた言葉をキーワードに、事件の記事を探す。 そしてそれは直ぐにヒットした。 「これだ」 被害者女性は但馬香奈枝さん二十五歳。H神社の境内でバラバラで遺体が発見される。犯人はまだ捕まっておらず、警察は捜索を続けているようだ…。 被害者は呪術師を生業としており、仕事関係の怨恨の可能性もあるとの事だった……。 「但馬香奈枝さん…宮司さんが言ってた但馬さんのお姉さんなのかな…? バラバラ殺人なんて…どうしてそんな酷いことが出来るんだろう…今の但馬さんの要因はお姉さんがキーなのかな…。」 不意に携帯が着信を知らせる音を鳴らし、ビクリと大きく肩が揺れる ドキドキしながら液晶画面に視線を向ければ、東地先生の名前がそこに映し出されていた。
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