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ポトフとサラダを作り、パンと一緒に食事を済ませた私達は、改めてテーブルを囲んでいる。私の目の前には羽生さん、隣には東地先生だ。
あー…もうどうにでもなれ!そんな気持ちで目の前の羽生さんの言葉を待った
「まず、どこまで調べた?」
羽生さんが真っすぐ見つめてそう訊ねる、私は頷くと経緯を話すことにした。
「最初は偶然知ったんです。とあるお店で、隣り合わせていた女の子達が、但馬さんの事かな?って話題をしてて……その会話の中で、数年前に起きた女性呪術師の殺人事件の話が出て、気になってネットで調べたら、被害者の方の名前が但馬とあったんで、宮司さんが以前話していた但馬さんのお姉さんの事なのかな…?って」
「……で、宮司に確かめたのか?」
「……そうですね。仕事で松川神社に行く予定があったので、その時に宮司さんに聞いたら、但馬さんのお姉さんだって教えてくれました…。
そんなに聞いちゃマズイ話なんですか?
私は、但馬さんの呪詛の事を知って、解除する方法があれば、何とかならないかなって気持ちでいたんです。……だけど、そんな簡単な事じゃ無いって、宮司さんとの会話から感じました」
「宮司さんは、何て教えてくれたんですか?」
東地先生がそう訊ねる。私はあの日の会話を思い出しつつ、話を続けた
「そもそも但馬さんが、呪術師になったのは、お姉さんを助けるためだって……。お姉さんは死んでもなお、魂は苦しんでいるから、それを解放するために、但馬さんは自分に呪いをかけて、呪術の準備をしているって……。
そして、この件には、カルト宗教が絡んでいるから、私に関わっちゃいけないって……。」
「あー……クソ宮司、入院長引かせればよかったなぁ……」
「これこれ、羽生君。…気持ちはわかりますが」
カシカシと頭を掻いてそう呟く羽生さんに、東地先生が苦笑いを浮かべながら諭していた。
「……実は、今朝ここに来る前に参拝した神社で、偶然但馬さんに会ったんです。結果から言えば、これは俺の問題だから一切関わるなって……きっぱり拒絶されちゃいました……。だから何かをしようと思っても出来ませんし、但馬さんとの接点はなくなったんですけれど……」
東地先生と羽生さんは、そう呟いて苦笑いを浮かべる私を黙って見ていた
「拒絶されたから、これで終わり。もう二度と関わらねーし、全く気にもならねぇ……って思えるか?」
「え?」
「あーまぁー…お前さんの性格上、それは無理だろ……だからこそ危うい」
「私……そこまでメンタル強く無いですよ?嫌われて尚、しつこくなんて出来ませんよ?」
一体どんな性格と認識されているのだろうか?
少し強めに言葉を返せば、羽生さんは小さく溜息を吐いた。
「だが……考えちまうんだろ?まず一つ、お前さんが知っておかなければならねーことは、お前さんが「引き寄せやすい体質」だという事だ」
「え?」
その言葉に目を剥けば、苦笑いを浮かべている東地先生と目が合った
「引き寄せを教えた身としては、非常に言いにくいんですが……。
古川さんは、良くも悪くも引き寄せを発動しやすいようで、だから古川さんが偶然と思っていた事も、実は偶然ではなく、引き寄せだった……ということなんですね」
「はぁ……?」
東地先生の言葉を聞きながら、分かったような、分からないような、曖昧な返事を返す、羽生さんは頭を掻きながら言葉を続けた。
「要は、お前さんが誰かを思い浮かべただけで、その考えた奴との遭遇率が上がるというわけだ。それを知ってたからこそ、俺達は、お前さんに但馬と関わるな、考えるなって言ってたんだよ」
「なるほどー……私にその引き寄せの能力が、あるかどうかはさておき、そういう理由だったんですね」
羽生さんのその言葉に対し、私はコクリと頷いた。
「まず……但馬の姉の但馬香奈枝だが」
「はい」
「俺の元カノだ」
「…え?」
「まぁ…付き合っていたといっても半年くらいだったがな……」
「……えっ?えっ?」
ちょっと待って…待って…
突然の情報に脳内処理できず目を丸くするが、構わず羽生さんは言葉を続けた
「香奈枝は、俺の実家の神社で、巫女のバイトをしていたんだ……。
まぁ……繁忙期限定のバイトだったがな、あいつは小さい頃から霊感が強かったらしく、それを人助けに役立てたいって常に口にしている奴だった……。」
「なるほど…素敵な志ですね…」
「まぁな。特技を人助けに使うのは良い事だと俺も思ってた…。
で、力の使い方を勉強する為、呪術師の勉強に行った先で、とある男と出会ったらしくてな……まぁ…その男の思想に感銘を受けて、熱を上げた香奈枝に、俺は振られた訳だ。……それから暫くして、風の噂でその男と一緒に新興宗教団体を立ち上げたって話を聞いた……教祖としてな‥…」
「宗教の話し…本当だったんですね」
私は驚き、そう言葉を返した
「教祖として活動をされていたのに……どうして痛ましい事件に巻き込まれたんですか?」
「……金の絡みだろうなぁ……その教団は香奈枝を教祖として奉りながら、高値のお布施をとっていたそうだ……霊感商法の類もな……」
羽生さんのその言葉を聞き、宮司さんの言葉を思い出す
悪い大人に利用されて…って言葉は、この事だったのかもしれない……。
「教団がお金儲けに走ってしまったんですね」
「ああ…香奈枝は、教団が自分の理想から外れている事に悩んでて、俺に連絡してきたんだ、会って相談したいってな……」
相談する相手が、別れた羽生さんだったんだ…一緒に教団を立ち上げた男性じゃ無いのは、関係が拗れていたからなのかな……
「話し合いは出来たんですか?」
「いや……会う約束をした前日だった……あいつが殺されたのは
見つかった場所は俺の実家の神社だ……無残な姿で早朝参拝に訪れた客に発見された……」
H神社って羽生さんの神社だったんだ……
自分の付き合っていた人が、自分の実家で無残な姿で死んでいたなんて……どんなに心が傷ついただろう……。
彼女が羽生さんに助けを求めていたのなら猶更だ……。
羽生さんの気持ちを考えると、何とも言えない感情が込み上げてきた
「そんな顔すんな……まぁ、確かに何も出来なかった自分を悔やんだけどなぁ…。本来なら犯人もすぐ特定出来たし、捕まる筈なんだが……そこに見えない壁があってな……」
「見えない壁?」
「権力犯罪…だな。香奈枝を殺して新たに教祖となった男は、とある政治家の嫡男だったんだ……だから未だ未解決事件とされている」
「…そんな…」
「警察は動かない。教団と教祖は存続している、そして香奈枝の心臓は教団で祀られているんだ。教団の神として魂は縛られている」
「心臓…?」
「バラバラ死体……心臓を抉られていたそうだ……」
その言葉に吐き気が込み上げる
宮司さんが言っていた、死んでも尚苦しんでいるっていう意味は、そういう事なんだ……なんてひどい話なんだろう……
権力犯罪で罰することも出来ないから、但馬さんは呪術師になったのかな?
お姉さんの無念を晴らすため…縛られた魂を助ける為に……。
「但馬さんが呪術でお姉さんと入れ替われば、お姉さんの魂は解放されるんですか」
「……まぁ、うまくいけばな」
「但馬さんは、どうなるんですか?」
「……」
返事がない……それが答えなんだ……
何て不条理なんだろう
私は両手を膝の上に置き、やりようの無い気持ちを持て余していた
「お前さんと同じ思いだ……何もできねぇ自分を情けねぇと思う
香奈枝を助けてやりたいが、だが、その為に大事な友人を犠牲にするわけにはいかねぇ……」
「東地先生や、点野さんが危なくなるという事なんですね……」
「…それと……お前さんもな」
「私……?」
「お前さんも大事だ。だから関わるなと言っているんだよ」
「…そうですね…古川さんを傷つけたく無いから…ですね」
羽生さんや、先生の言っていることの意味がストンと心に落ちてきて
私は「ありがとうございます…心配してくれて…」と呟いた
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