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気が付けば……薄暗い闇の中に私はいた
これは夢の中なんだろうか?
何故こんなところに私はいるんだろう……?
心細い気持ちで、辺りを見渡せば背後からボソリと呟く声がした
「何で、あんたがここにいんの?」
「え?」
暗くて視界が悪いが聞き覚えのある声だ
「……但馬さん?」
そう声を掛ければ、溜息交じりに「当たり」とそっけない返事が返ってきた
「良かった、無事だったんですね?意識が無かったから心配していたんです」
但馬さんに近づこうと歩みを進めればゴンと何かにぶつかり、その反動で体が押し返された
「痛っ……何?」
目の前に手を伸ばし確認する、どうやら見えない壁のようなものが私と但馬さんの間に存在し、それ以上近寄ることは出来ないようだ。
「壁……?」
「それは、俺とあんたの境界線」
「境界線ですか?え?心の?何気に傷つきますね」
「ブッ。それもあるかもしれねーけどな。生と死の境界線じゃねーの?俺は多分死んだから」
「え?」
笑いながら…しかしそれは直ぐに溜息交じりとなり、言葉を続ける但馬さん。その言葉に私は驚きを隠せないでいた。
「逆に聞くけど、あんたは何で此処にいんの?あんたも死んだわけ?」
「私が……死んだ?」
え?私死んだの?いつ?全く自覚が無いんだけど?
そう言われて、此処にいる原因を冷静に思い返してみる
確か、夜中に女性の幽霊が出て……神社に向かったんだった……そこで神木に飲み込まれている但馬さんを発見して…確か但馬さんに触って気を失った気がする……。え?じゃぁ、あれが原因で私も死んじゃったの?
驚きのあまり私は固まってしまった。
「巻き添え食らうから俺に構うなって言ったはずだけどなぁ……ホント何やってんの?あんた。俺のせいじゃねーからな、恨むなよ」
「恨みはしませんよ……ただ自覚が無いから、ビックリしただけで」
そうかぁ……東地先生や、羽生さんに知られたらめっちゃ怒られるだろうなぁ……あ……いや、死んじゃってるんなら怒られる事も無いのか……というか…もう会えないのか……え?会えないんだ……
そう思うと心の奥から悲しい何かが込み上げてくる
私はその気持ちをグッと堪えた
「そういえば…但馬さん、お姉さんはどうなったんですか?解放されたんですか?」
「…あんた、何で知ってんの?」
「……少しだけ事情知ってるので…すみません…」
「まぁーいいけどな。姉貴はまだ解放出来てねぇよ」
「え?そうなんですか?」
「ああ、正面見てみろよ」
「正面?」
暗闇の中じっと目を凝らせば、ウゴウゴと蠢くモノが視界に入った
「何ですか?あれ」
「呪詛の慣れの果て?姉貴と贄にされたモノの集合体」
「お姉さん…なんですか?」
驚き蠢くモノを再度確認する
気味の悪いアメーバー状のものが形を成しておらず禍々しいオーラを纏っていた
「あの男……姉貴を呪い箱の贄にしやがった」
「呪い箱?」
「最強呪物…色んな動物を生きたまま箱に閉じ込めて、生き残った奴が最高の呪物となる呪いの箱……コトリバコとも言われてるけどな…。そいつに姉貴の心臓を食わせたんだろう…」
「酷いですね…じゃあ、お姉さんは取り込まれたままなんですか?但馬さんはお姉さんを解放したくて頑張ってきたんですよね?」
「あんた…まぁいいや、今のままだと解放なんか出来ねぇな、逆に俺がアレに取り込まれる」
「そんな……それじゃ」
「ああ…死に損ってやつだな…あの男、計算に入れてたんだろう」
「あの男って…お姉さんを殺して教祖になった人ですか?」
「本当あんた……知り過ぎ」
但馬さんは苦笑いを浮かべ、目の前に蠢く呪物を見つめていた
◇◇◇◇◇
東地は羽生に呼ばれ、真夜中の総合病院へ駆けつけていた
理由は詳しく聞かなくても大体は想像できる
携帯のLINEに送られてきた古川からの画像と、既読にもならない、着信にも出ない古川の事だと理解していた。
静かな院内を足早に歩き、エレベーターで最上階を目指せば、最近来たあの病室の前へと辿り着いた。
面会謝絶の扉を静かに開く、そこには医療機械に繋がれた古川がベッドに横たわっていた。
「古川さん…」
そっと名前を呼ぶが勿論返事はない
意識不明の重体
羽生にはそう聞かされた……。
古川の手には、雷の衝撃をうけたような火傷の跡が残っていて、包帯が巻かれている。東地はそっとその手を握り声を掛けた。
「こんな事になるくらいなら、あの男を殺しておけばよかったですね……」
「オイオイ、医者が物騒な事言ってんじゃねーよ」
東地の呟きに苦笑いを浮かべながら羽生が言葉を返す
いつの間に入って来たのか、羽生が入り口に立っていた
「警察の聞き取り調査は終わったぜ。お嬢……両親を早くに亡くし一人だったんだなぁ、身内に連絡しようにも連絡がつかないわけだ。」
「……そうだったんですね。保証人なら僕がなりますよ」
「…まぁ、その必要はねーけどな。しかし…何で真夜中の神社にいたんだ」
「詳しい詳細は無かったんですが、LINEで画像が送られてきたんです」
東地はそう呟くと、羽生に携帯を渡す
羽生はLINEにアップされている画像に驚きの顔を隠せないでいた
「…アイツに呼ばれたのか?」
「でしょうね。でなければピンポイントで真夜中の神社に行くことなど無いでしょう」
「いやいやいや、引き寄せでもこのタイミングは無理があるんじゃねーか?」
「……何かの媒体を持っていた?もしくは…」
東地が画像をアップにして但馬が取り込まれている木の後ろを指差す
それを見た羽生は目を丸くした
「……香奈枝?」
そこには薄っすらと髪の長い女性が映っていたのだった
「彼女が古川さんを誘った…という推測も出来ますね」
「弟の危険を察知して……か?」
「そうだと良いんですがね」
東地はそう呟き、古川の顔をじっと見つめた
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