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見えない壁越しに但馬さん、そして呪物となったお姉さんを前に
私は暫く思考停止していた。
但馬さんが言うように、私も同じく死んでいるのなら、何故壁があったり痛みを感じたりするんだろう……。
死んでも感覚は生きていた時と同じって事なのかな?えーマジか
幽体だけになったのなら、どこでもスイスイすり抜けれる便利な存在になるんだとばかり思っていたが、認識違いだったのかぁ…。そうかぁ…。
というか、死んだというのなら、お迎えはどうしたの?
死んだら身内がお迎えに来てくれるという話を聞くけど、え?誰も来ないの?
え?両親は来るべきでしょう?一人娘を残して早々に召された両親だよ?
心配じゃないのかい?おーい!薄情者めー!
あ…いやいや、今はそんな事より、目の前の事を考えよう
但馬さんのお姉さんを、どうにか解放してあげれないだろうか……
あのままじゃ可哀そうすぎる、それにとても苦しいよね。
人の為に役立ちたいと思っていたのに、悪い大人に騙されて殺され、挙句に、こんな姿になって尚も苦しんでいるなんて、あんまりじゃないか……
それに、羽生さんだって元カノがこんな事になってたら悲しむよね……。
但馬さんだって、お姉さんを助けるために、身を張って頑張って来たのに…
その気持ちを踏みにじるなんて……
教祖か何か知らないが馬鹿にしている
ぶん殴ってやりたいくらいだ
お化けになって脅しにいけないかな?ていうか、今の私、お化けだよね?
ワンチャンいけるんじゃないの?
「……オイ」
声を掛けられハッと我に返る
声の方に視線を向ければ、暗闇の中でも分かるほど呆れ顔を浮かべている
但馬さんの顔がそこにあった。
「俺の身内の事は俺が何とかするから、余計な気を回すな…てか、化けて脅すって何?」
「すご…エスパー?考えてる事がわかるなんて!」
「声に出してるんだよ!死んでるくせに能天気な奴だな!」
「あ…声に出してましたか…なんだ…いや、深刻に考えてますよ?
お迎え来てくれないと地縛霊になったら嫌ですし…でもその前に、お姉さん助けてあげたいし。但馬さんだって、呪詛の仲間入りしたくないでしょ?」
「嫌な言い方すんな。俺が何もできねぇのに、お前に何ができんだよ?」
「うーん…癒し?引き寄せ?この二つのスキルはあるみたいです…東地先生曰くですけど」
「…引き寄せられるの間違いじゃねーの?そのポンコツスキルのせいで死んでんだから」
「うわー…禁句ですよ。凹むじゃないですか」
「おー凹んでろ、ペシャンコになるくらいにな」
「酷いですねー」
但馬さんと掛け合い漫才のような会話をしていたら
静かに蠢いていた呪物が形を変え、突然但馬さんに襲い掛かる
但馬さんは素早く動き呪物の攻撃をかわした
「…っぶね」
「うわ…大丈夫ですか?まだ呪物とフュージョンしないでくださいね!私一人になっちゃったら嫌ですよ!」
「嫌な言い方すんな!スーパー呪物になんかなる気ねーわ!ってか、心配がそこかよ!」
「あたりまえじゃないですか!ボッチは嫌ですよ!」
「自己中なやつだな!」
但馬さんと言い合いしていたら不意に背後から何者かに背中を抱かれる
それと同時に心地よい聞きなれた声が頭の上から聞こえてきた
「賑やかですね」
「え?東地先生?」
驚き見上げれば、そこには優しい笑みを浮かべた先生の顔があった
「迎えに来ましたよ」
「え?お迎え?先生天使だったの?」
「残念ながら天使じゃありませんよ。それと古川さんは死んではいないです」
「え?そうなんですか?てか、先生どうやってここに来たんですか?」
「点野君にお願いしてね。あまり長い時間はいられないですが…本当に死んでしまいますからね」
「点野さん凄い!そんな技を持っていたんですね!いやいや、それより先生が死んじゃったら大変!早く戻って!」
「ええ、ですから古川さんと一緒に戻りますよ」
「あ……なるほど。危険を冒してまでお迎えに来てくれたんですね。ありがとうございます…でも…」
私はそう呟き但馬さんに視線を向ける
先生は但馬さんをじっと見つめた
「君はこの境界線の意味…理解していますよね?」
「ああ……自分で仕掛けたものだからな」
「…結果的に君も呪物の贄にされるわけですが…」
「……仕方ねぇよな。アイツが一枚上手だっただけだ」
「君の考えはそれでいいかもしれませんが、君の姉はそうは思ってはいなかったようですね」
「…どういう意味だ?」
「直接お聞きになればいかがです?」
「は?」
東地先生の言葉に反応したように、呪物の動きがピタリと止まる
ズズズ……とアメーバー状のものが下に流れ落ち、中から若い女性が姿を現した。その姿には見覚えがある。
私の家に現れたあの幽霊の女性だった……
なるほど…但馬さんのお姉さんだったのか……。
「姉貴?」
但馬さんが目を剥き女性を凝視する
東地先生は、女性に声を掛けた
「……僕をここに呼ぶために、古川さんを利用したんですね?」
その声は静かだが怒気を含んでいる声だった。
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