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「……僕をここに呼ぶために、古川さんを利用したんですね?」 その声は静かだが怒気を含んでいる声だった。 先生は凄く怒っているようだ 私は心配になり、先生の顔を見つめる 先生の顔は怒りを露わにした表情を浮かべていた 「……彼女を利用して傷つけた事に怒っていることは理解してます…ごめんなさい。でも時間が無かったの……」 「では、僕の返事も勿論お分かりですよね?」 「………」 「そう、返事はNOです」 冷たい雰囲気を纏いキッパリと言い切る先生に対し、但馬姉は悲しそうな表情を浮かべる。先生が何に対して断っているのかは分からないが、困っているなら力になってあげて欲しいと思う……。 思わず先生の腕を引っ張り「力になれるなら…」そう言いかけたが、先生の手が私の口を塞ぎ、それ以上の言葉を言わせないようにした。 「言葉にしては駄目です。君のお願いでも、これはね」 「……先生」 いつになく真剣な眼差しで言い切る先生にそれ以上私は何も言えなかった。 断るには、それなりの理由があるのだろう……。 ならば私の出る幕ではない 「…はい」 私は先生に小さく返事を返すと、先生は少しホッとした表情を浮かべ 私から手を離した 「……そう。」 但馬姉は小さく呟き俯く。 次の瞬間見えない壁をすり抜けてアメーバー状の呪物が私の腰に絡みついた 「うわ!」 「古川さん!」 声にならない悲鳴を上げた私は勢いよく壁の向こうへと引きずり込まれる 咄嗟に伸ばした東地先生の手は見えない壁に阻まれ 私と先生は壁の中と外の空間に隔てられてしまった 「本当に時間が無いの。悪いけどこの子は人質にさせてもらうわ」 但馬姉の言葉に、壁の向こうの東地先生が、怒りを露わにした表情を浮かべる 足手纏いになってしまった私は先生に声をかけた 「先生!私は大丈夫だから!引き受けたくない事は断って!」 先生は一瞬薄い微笑みを浮かべ、そして冷たい眼差しを但馬姉に向けた 「……タイムリミットはどれくらいですか?」 「……五日が限界かしら……間に合わなければ弟と彼女は私と一緒に呪物に取り込まれるわ」 「……腸が煮えくり返りますね。僕は古川さんさえ無事なら、あなた達姉弟はどうでも良かったのですが……」 「相変わらずね……最近は丸くなったと思っていたけど」 「古川さんに、余計な事を言わないでくださいね。 ええ、面倒ですが片付けて来て差し上げますよ、ご要望通りにね」 「大丈夫よ。彼女は丁重におもてなしするわ。正し、私の意識があるとき限定だけどね。一日に数時間しか保てないから、彼女が呪物に取り込まれる前に急いでお願いするわね」 先生と但馬姉との冷ややかな会話が終わる 冷や冷やしながらその様子を見ていたら、先生が優しい表情に戻り私に声を掛けてくれた 「すみません、野暮用が出来てしまいました。あと五日我慢してていただけますか?必ずお迎えに来ますから待っててくださいね」 「私は大丈夫です。先生、危ない事はしないで下さいね!」 「大丈夫です。心配しないで」 見えない壁に手を添え先生に声を掛ける 先生は壁越しに手を添え優しく微笑んでくれた 「じゃ、そろそろ戻らなければいけないので、行きますね。」 「先生……」 ニコリと微笑むと先生は印を唱える くるくると光の粒子が先生を包むように螺旋を描いた 「点野君、お願いします」 その言葉の合図とともに先生の姿は霧のように消えていった 折角会えたのに…… 先生が消えた空間を寂しい気持ちで見つめる 背後から但馬さんに声を掛けられた 「あんた……あのお祓い屋とどんな関係?」 「東地先生ですか?仲の良いお友達ですよ?」 「オトモダチ……向こうはそうは思ってねぇと思うけどなぁ。」 「そうですか…?私が思う程先生は気を許してくれてないって事?それは凄いショックだな……」 「ショックなのはむしろ向こうだろ?報われなさすぎ。」 「?」 但馬さんとそんな会話のやり取りをしていたら「うわぁ……怖かったぁ…」と声をあげ但馬姉がへたり込んでいた。 「そうだ!姉貴!呪物とフュージョンしてたんじゃねぇのか?」 「してたわよ。普段はあのキモチワルイ呪物の中にいるわよ、だけど一日に数時間だけ自由に出来るようになったのよ。力比べね。私の力が強くなるタイミングがあるときだけどね」 先程と雰囲気がガラリと変わり、ポップなノリの姉弟喧嘩が目の前で 繰り広げられる。私は但馬姉の名前を思い出し、その名を呼んだ 「香奈枝さん…ですよね?」 「そうよ、良く知ってるわね。」 「怖かったって……呪物がですか?そりゃ怖いですよね」 「違うわよ。呪物より怖い男がいたでしょ?」 「呪物より怖い男?」 「あー…あなたの前では猫被ってるのね。あの東地…最恐のお祓い屋よ」 「最恐?最強じゃなくて……?」 「最強でもあるけどね……だからあの男に頼みたくて弱点狙ってたんだけど…隙が無かったのよね。で、あなたの存在を知って…悪いけど利用させて貰ったわ。ごめんなさいね…」 香奈枝さんは申し訳なさそうに私に頭を下げる 先生の弱点って、人に優しいとかアルコールに弱いとかじゃ弱点にならないのかな?とそんな事を考えつつ「いえ、それは大丈夫です」と返事を返した。 「いや…大丈夫じゃないのよ……依頼が終わったらあの男に塵の如く消されるわ私……あなたにケガさせちゃったから」 「ケガ?」 「この馬鹿弟を助けようとして触ったでしょ?その時…瘴気で火傷したの…」 「え?そうなんですか」 そうか、火傷したのかぁ、意識取り戻した時、痛いのだけは嫌だなぁ‥…。 「それより姉貴、どうやってコイツをこっちに引き入れたんだ?」 「ああ、あんたとこの子が媒体を持ってたから…」 「「媒体?」」 「ハンカチよ。互いに持ってるでしょ?」 但馬姉の言葉を聞いてポケットからハンカチを取り出す なるほど、これが媒体になって引っ張りこまれたのかぁ…… 「…何であんた、持ってんだよ?」 但馬さんが嫌そうな表情を浮かべて私に呟く 香奈枝さんは但馬さんの頭を軽く小突いた 「何尖った事言ってんの?忘れられたくなくて念込めて贈ったくせに」 「え?そうなんですか?」 「ち…げぇよ!勝手な事いうんじゃねーよ」 またもや姉弟喧嘩が始まる 私はその様子を見詰めつつ、戻っていった先生の事が気掛かりだった…。
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