訪問診療

1/7

37人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

訪問診療

新しい勤務先になり、充実した毎日を過ごしていると時間の経つのがとても早い。気が付けば、東地先生に仕事が決まった報告をしてから、もう一ヶ月が経とうとしていた。 東地先生とは、偶にLINEでやり取りをするくらいには仲良くなれた気がする。報告をしに行った帰り、先生と連絡先を交換しあったのだった。 先生からLINEが届くと、正直嬉しい。 ただ、面倒くさい奴と思われたくないので、こちらからのLINEは控えめにしていた。折角の癒しの友人を失いたくない。心からそう思う。 目の保養、心の栄養。生きるエナジードリンクのような人だと思う。 そんな事を考えていたら、鞄の中に入れたままの携帯がバイブ音を響かせた。 急いで取り出すと、それは東地先生からLINEの電話であった。 「え?電話なんて珍しい……。」 何かあったのだろうかと、通話ボタンをタップすれば、携帯の向こうから癒しのボイスがダイレクトに聞こえた。 「はい、先生どうしました?」 『あ、お忙しいところすみません。今大丈夫ですか?』 忙しいのはむしろ東地先生の方だと思う。 そんな事を考えながら「大丈夫ですー」と返事をした。 『急なお話なのですが、明日の土曜、予定空いてるでしょうか?』 「明日?会社はお休みですし、特に予定はありませんよ?」 『実は、月一で訪問診療をする家があるのですが、古川さんに一緒に来ていただけないかと思いまして……。』 「え?訪問診療にですか?私、看護師の資格持っていませんが?」 先生の突然のお願い事に驚きつつ、言葉を返す。 電話の向こうで先生の『知ってますよー』と苦笑いを含んだ声がした。 先生が突然こんなお願い事をしてくるには、よほど何かの事情でもあるのだろうか?困っているのならば、助けてあげたい気持ちは存分にある。 「鞄持ちのお供としてでしたら、お付き合いさせていただきますよ? 先生がこんなお願いをしてくるのは、とても珍しい事だと思いますし。」 『ありがとうございます、古川さん。ご無理言ってすみません……。』 どこか安堵を含んだ声が返ってくる。よほど一人で行くのが嫌な訪問先なのだろうと、その声を聞きながら「ウム。」と心の中で頷いた。 『では明日十時にクリニックでお待ちしてます。』 「はい、了解しましたー」と返事を返し、先生との通話を切った。 そうか……明日先生に会えるのか……。そう思うと心の中がソワソワする。 遅刻だけはしないように、目覚ましをしっかりセットしておこう。 私はいつもより早めに就寝することにした。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加