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訪問診療
新しい勤務先になり、充実した毎日を過ごしていると時間の経つのがとても早い。気が付けば、東地先生に仕事が決まった報告をしてから、もう一ヶ月が経とうとしていた。
東地先生とは、偶にLINEでやり取りをするくらいには仲良くなれた気がする。報告をしに行った帰り、先生と連絡先を交換しあったのだった。
先生からLINEが届くと、正直嬉しい。
ただ、面倒くさい奴と思われたくないので、こちらからのLINEは控えめにしていた。折角の癒しの友人を失いたくない。心からそう思う。
目の保養、心の栄養。生きるエナジードリンクのような人だと思う。
そんな事を考えていたら、鞄の中に入れたままの携帯がバイブ音を響かせた。
急いで取り出すと、それは東地先生からLINEの電話であった。
「え?電話なんて珍しい……。」
何かあったのだろうかと、通話ボタンをタップすれば、携帯の向こうから癒しのボイスがダイレクトに聞こえた。
「はい、先生どうしました?」
『あ、お忙しいところすみません。今大丈夫ですか?』
忙しいのはむしろ東地先生の方だと思う。
そんな事を考えながら「大丈夫ですー」と返事をした。
『急なお話なのですが、明日の土曜、予定空いてるでしょうか?』
「明日?会社はお休みですし、特に予定はありませんよ?」
『実は、月一で訪問診療をする家があるのですが、古川さんに一緒に来ていただけないかと思いまして……。』
「え?訪問診療にですか?私、看護師の資格持っていませんが?」
先生の突然のお願い事に驚きつつ、言葉を返す。
電話の向こうで先生の『知ってますよー』と苦笑いを含んだ声がした。
先生が突然こんなお願い事をしてくるには、よほど何かの事情でもあるのだろうか?困っているのならば、助けてあげたい気持ちは存分にある。
「鞄持ちのお供としてでしたら、お付き合いさせていただきますよ?
先生がこんなお願いをしてくるのは、とても珍しい事だと思いますし。」
『ありがとうございます、古川さん。ご無理言ってすみません……。』
どこか安堵を含んだ声が返ってくる。よほど一人で行くのが嫌な訪問先なのだろうと、その声を聞きながら「ウム。」と心の中で頷いた。
『では明日十時にクリニックでお待ちしてます。』
「はい、了解しましたー」と返事を返し、先生との通話を切った。
そうか……明日先生に会えるのか……。そう思うと心の中がソワソワする。
遅刻だけはしないように、目覚ましをしっかりセットしておこう。
私はいつもより早めに就寝することにした。
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