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診療所を出る頃には、どっぷりと日が暮れていた。
時間的にも遅いので、近所のお店で食事かな?と軽く思っていたが、
以外にも、東地先生が良く行くというお店へ車で向かう事となった。
本日二回目のドライブである。
あ、違った、一回目は往診でした。往診。
「吉野さん、疲れてますか?」
「……え?大丈夫ですよ、どうしてですか?」
流れる景色をぼんやりと眺めていたら、先生から心配げな声が掛かる。
目線を窓の景色から先生へ向ければ、少し眉を下げて苦笑いを浮かべている
顔がそこにあった。
「今日はずっと車で引っ張りまわしているので、疲れていないかと思いまして……。」
「あー、全然大丈夫です!久しぶりに車に乗ったので、ドライブを楽しんでいます。むしろ、それを言うなら東地先生の方が疲れていないですか?ずっと運転されてるし……」
「いえ、僕なら大丈夫ですよ。精神的サポートを古川さんがして下さったんで、実はとても助かってます。」
「精神的サポート?」
はて?何の事だろうか?
その言葉に小首を傾げるが、先生はその後の言葉は続けず、
ただニッコリ微笑むだけだった。
「……今から向かうお店は、夜景がとても綺麗なんですよー。」
「おお、そうなんですか!楽しみです。」
話しをはぐらかされた気がするけれど、まぁ……いいか。
言いたくない事ならば、しつこく聞くような野暮なことはしない。
車はくねくねとカーブを曲がり、山道を登ってゆく
山頂に近づくと、ポツリと一軒、可愛い外観のレストランがみえた。
「はい、到着しましたよ。」
先生が駐車場に車を停め、エンジンを止める。
フロントガラス越しに、キラキラと宝石箱のような夜景が広がっていた。
「凄い……綺麗ですね!」
「此処は、僕の癒しの場所なんですよ。」
「確かに……疲れた心も身体も、一気に吹き飛ばしてくれそうですね」
「レストランの料理もとても美味しくて、パワーを貰えますよ」
「何と!最強パワスポじゃないですか!」
私の言葉に先生が反応し、クスクスと笑う。
良かった。
往診後、何処となく硬かった東地先生の表情が、少し和らいだようだ。
今日は曇った表情が多かったので、私は安堵のため息を吐いた。
「さて、では行きましょうか。お腹空いたでしょう。」
「はい。」
先生の言葉に頷いて、車を降りる。
キラキラ輝いている景色を前に、私はグーっと大きく伸びをした。
「空気が澄んでいて、心地よいですね」
夜景を見つめながら、先生がポツリと呟く。
優しい風が吹き、先生の長い髪を優しく揺らした。
お店の扉を先生が開くと、直ぐに優し気な雰囲気を身に纏った、これまたイケメン属性の男性が笑顔で出迎えてくれた。
「やぁ、いらっしゃい。」
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