訪問診療

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「……………」 お手洗いから戻ってきたら、羽生さんが、先生にアルコールを飲ませていた。 東地先生の口にワインの瓶を突っ込んでいるんですが え?ちょ……思わず真顔で立ち尽くしてしまう。何故こうなった? 「っは…羽生君!酷いですー僕車で来たんですよ?  運転出来なくなってしまったじゃないですかぁぁぁぁ!」 「ハハハ、どうせ明日は休みだろ!この店に来た時点で諦めろ。 点野、上の部屋空いてるだろ?」 「浩輔……まぁ、空いてはいるけどね。 僕のお店で、お客様に迷惑をかけるのはやめてくれるかな?」 厨房から料理を運んできた点野さんに、視線をスライドさせる。 その背後に、禍々しいオーラが渦巻いているのが見えた。 うああ……オコですね?分かります。分かります。 「ハハハ。もう閉店にして、お前も飲めよ!」 酒乱の羽生さんが、今度は点野さんの肩に手をまわしてウザ絡みをしだした。 俺様ジャイアン羽生。爆誕である。 巻き込まれないよう、その様子を少し遠目から見ていたら 点野さんと視線が合い、本当に申し訳なさそうな表情へと変わった。 「ごめんね。折角来てくれたのに、この馬鹿な酒乱のせいで…… 二人とは、大学時代からの腐れ縁なんだ。 ああ、君を家まで送るタクシー代はきっちり羽生から徴収するから安心して。 あと、お詫びにデザートも作るね」 点野さん、苦労人か。 東地先生はテーブルに顔を突っ伏し微動だにしない。強く生きて! 「あ……お気になさらず。タクシーは自分で呼びますから」 「だ…駄目です!僕が此処に連れてきたんですから、僕が責任持って送っていくんですぅ!」 「飲酒運転、乙!」 いきなり復活した先生が、私の腕を掴みながら訴える 私はその手を振り払いながら「飲酒運転はダメです。」と言葉を返した。 てか、幼児化してないですか?キャラぶれしてませんか?先生。 眠そうに再び机に突っ伏した先生を横目に椅子に腰掛る。 取り合えず、携帯を取り出し、タクシーを検索することにした。 不意にチャリと音がして、私の前に鍵が置かれる。 「え…鍵?」 顔を上げると羽生さんが目の前にいた 「悪ィな、東地に酒飲ませた責任が俺にある。 このレストランの上が宿泊施設になってるんだ、泊まってけ。 良い部屋だし、景色も綺麗だ。東地には明日送らせるからよ。」 「へ…でも?」 戸惑っていたら、点野さんがニコリと微笑みながら頷いた。 「大丈夫、料金は羽生からもらってるから。 東地も潰れて帰れないだろうし、君には迷惑かけちゃうけどね」 「い…良いんですか?」 「うん、皆でゆっくり食べて飲もうか」 「ありがとうございます」 イケメンのゴリ押しに耐性の無い私は、思わずお辞儀をする 点野さんはニッコリ微笑み、ワイングラスを差し出してくれた。 「おう、何こっそり口説いてやがんだ、このムッツリ」 「口説いてないよ、浩輔の尻拭いしてやってんの」 「そ…そうです。点野さんに親切にして頂いてます」 「んー、俺は親切じゃねーの?」 羽生さんが少し拗ねた顔で私を見つめる 瓶を口に突っ込まれたら怖いので、若干の距離を取りつつ言葉を返した。 「羽生さんは、豪快なトラブルメーカーですね」 「違いねぇわ。ハハハハハ」 チラリと東地先生を見つめれば、机に突っ伏したままどうやら眠ってしまったようだ。今日はお仕事と遠距離の運転で疲れていたのかもしれない。 決して、急性アルコール中毒ってやつでは無いはずだ。 「ああ、東地なら大丈夫だ。もし何かあっても俺も医者だし心配すんな」 「医者?」 「お、何だ、その意外そうな声は。俺も地元では腕の良い医者で通ってんだぜ。ハハハ」 そう言いながら豪快に笑う羽生さんを思わずガン見してしまう マジか……雰囲気的には、外科医が似合いそうだ。 消毒とか言いながら、口からアルコール吹きかけそうなイメージだよね……。オソロシイ。 「いや、俺でも流石にそれはしねーわ」 「え?言葉に出してました?」 口からスルッと駄々洩れていたらしい本音に苦笑いを浮かべ 私はハハハと笑って誤魔化した
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