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春は出会いの季節と言うけれど
線香の煙が、窓から差し込む春の光に照らされて、ちりちりと反射していた。
仏壇に添えられた写真に咲く一輪の笑顔に手を合わせて、槇玲華は席に着いた。
「いただきます」
「召し上がれ」
父である悟と向かい合って座り、玲華は自分の皿の卵焼きに手を伸ばした。卵焼きには白だしが入っていて、ほんのりとした風味が口の中に広がる。温め直した白米と味噌汁を交互につついていると、今日一日の天気をテレビが教えてくれた。
玲華が高校生になって二度目の春が来た。今年は一つ学年が上がって、後輩ができる。先輩たちが卒業して二人しかおらず、そのせいで存続の危機にある文芸部は、部員を最低でもあと二人何としてでもかき集めなければ同好会に格下げになってしまう。そうすると部費が安くなるので、文化祭で文集を出すのは絶望的になるだろう。そうなると連鎖的に文芸部の知名度が下がり、ついには廃部になってしまうかもしれない。私たちの代で部活が終わってしまうのはやるせない。なんとなくこう、未来の後輩たちに責められるような気がして。まあでも、二人くらいなら入ってくれそうなものだ。新入生、いい子たちだといいな。
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