11人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「もうすぐ蘭の命日だな」
そんな春の始まりで膨らんだ胸に冷たい風が吹き抜けるように、悟の言葉が玲華の耳に入ってきた。
「……そうだね、お墓参りの準備しなきゃ」
「ああ……蘭に話しておきたいことがあるんだ。それから、玲華にも」
悟は口を一度開いて何かを言いかけてから、躊躇うように口を結んだ。そして今度は先ほどよりもゆっくりと、軋んだ扉を開くように言葉を紡いだ。
「俺、再婚しようと思ってる」
そのことに関しては、玲華はさして驚きはしなかった。父もいい歳だし、母のことを忘れたっていい頃だ。二人は玲華が幼い頃に離婚したので、彼女は母のことをあまり覚えていない。それに、悟に良い人ができたんだなというのも、なんとなく察していた。だからそのことに関して驚きも抵抗もなかった。
次の言葉を聞くまでは。
「それでな、玲華……玲華に妹ができるんだ」
妹? 私に、蘭以外の妹が?
それは玲華にとって、拒絶や抵抗を通り越してあり得ないに近かった。実感が湧かない、と言った方がいいだろうか。
「玲華が蘭と仲良しだったのはわかる。蘭が亡くなってからまだちょうど二年だし……受け入れ難いかもしれない。でも——」
最初のコメントを投稿しよう!