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「大丈夫だよ。父さんの好きにして」
震える声を隠すように玲華は笑顔を貼り付けた。上手く隠せた自信はなかった。
「玲華と同じ望都高校に入学したんだ。頭も良いしすぐに仲良くなれると思う……ああでも」
「でも?」
「……いや、なんでもない。忘れてくれ」
玲華は悟が顔を曇らせたのが気になったが、これ以上追求できる空気ではなかった。何より彼女にはその余裕がなかった。
「とにかく、二人はすぐに仲良くなれるはずさ。ああ、急だけど明日うちに来るから、家の掃除、よろしくな」
悟はそれだけ言って時計に目をやると、「行ってきます!」と勢いよく出て行った。
玲華は少しでも蘭のことを頭に残しておこうと線香の匂いを胸いっぱいに吸った。新鮮だけど煙たい空気は頭の中を駆け巡ってぼーっとさせた。
「蘭、私もう一度お姉ちゃんになるんだって」
ぽつり、と言葉が漏れた。
「私の妹はあなただけなのにね……」
そうして蘭の遺影にキスをして、玲華は家を後にした。
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