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新入生も無事入学して三日ほど経っただろうか。真新しい制服に身を包み、まだ制服に着られている感の否めない後輩たちを見ると、玲華は自然と胸が温かい気持ちになる。
「こういうのを母性って言うのかな?」
「多分違うと思う」
そう答えた女生徒は、掛けていた眼鏡を外してケースに仕舞った。その動作は無駄がなく、どこか美しいとさえ思ってしまう。本人曰く、「幼い頃に芸事を嗜んでいたせいじゃない?」ということだ。
「玲華、次も移動教室だけど荷物取りに戻る? 私は持ってきたけれど」
「抜かりないね由紀……まあそういう私もしっかり持ってきたのだ」
集団で廊下を歩く一年生を眺めていると、玲華は一年前を思い出す。この学校は校内の移動にショートカットが利く分、迷いやすい。道なりに校舎内を歩くより、中庭を突っ切ったほうが早かったり、逆に中庭を突っ切ると行き過ぎて戻る羽目になったりと、なかなか楽しい構造をしている。だからああやって一年生が集団で歩くのは、移動教室で迷わないために自然と編み出された本能のようなものだ。
「うちの学校、迷いやすいもんね。近道たくさんあるし」
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