春は出会いの季節と言うけれど

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 そして玲華は、今朝の悟との会話を脳内で反芻した。実際には誰にも聞こえないくらいの小ささで不意に漏れた言葉だったが、由紀にはしっかりと届いたようだ。黒板の字を消す手を止めて、由紀が玲華の方を伺う。 「……もうすぐ妹さんの命日だっけ?」 「え? ああうん、そう。そうなんだけど……」 「何か問題?」 「……父さんが再婚するんだ。それで、妹ができるって」 「そう……」  一瞬の逡巡の後、由紀は再び手を動かし始めた。 「まあ、悩んでる暇があったら手を動かしたほうがいいわ。考えるのもいいけど、結局相手に伝わるのは言葉と行動だけよ」  いつの間にか上下ある黒板の二枚目も消し終わった由紀は、手を合わせてチョークの粉を払った。 「急ぎましょう。あと五分で授業が始まるわ。一年生も入りづらそうにしているし」
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