春は出会いの季節と言うけれど

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 あたりを見回すと、さっき廊下で見たのとはまた違う一年生らしき集団がちらほらと廊下に立っている。この学校は制服のリボンで学年がわかるようになっているから、先輩がいるのを見て入るのを躊躇ったのだろう。それか、何やら深刻そうな話をしているのが空気で伝わったのかもしれない。玲華は急いで自分の担当範囲を消していった。急いで消すとチョークの粉が舞って吸い込みそうになるので、息を止める。そして玲華はさっき由紀がしたのと同じように、手を合わせて粉を払った。ついでに制服に少し付いた粉も払う。 「おまたせ由紀。行こっか」  授業開始まであと三分。次の物理学教室は同じ階にあるとはいえ、それなりに距離はある。二人は荷物を落とさないようにしながら、小走りで教室へ向かった。次の角を曲がれば目的地だ。 「なんとか間に合いそうだね」  彼女たちは他の通行人の邪魔にならないように縦になって走っていた。玲華が前で、由紀が後ろ。玲華は振り返って先ほどの言葉を由紀にかけた。  それは一瞬だった。まるでドラマで主人公の中身が入れ替わるみたいに。 「——っ! 玲華、前!」 「え?」
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