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俺たちは偶然見つけた陶器の店に入った。
この辺りでは有名なものらしく、どうせなら買いたいと言ったのは珍しくというか俺だ。
いらっしゃいませ、なんて心地いい声で迎えられ、俺たちは並んでいる食器類を見つめる。
「何個か2人分買ってこうよ。俺の家にあるの少ないからさ」
湊さんの家で使う前提…と思ったけれど、反対では無いから何も言わずに頷いた。
湊さんの家には食器類が少なくて、あっても1人分くらいしか無いから2人でご飯を食べる時は別々の食器を使っている。
この機会に買っちゃえばこれから一緒に住んだ時も使えるし…なんて思ったあと、いや1人で何考えてんのと思考を遮断した。
それから目の前にある皿に集中した。
「これとかどう?」
「いいですね、あとこれと…」
何て大体3種類くらい買って、会計をして店を出た。
丁寧に梱包されたそれは重くて、でも俺が持とうとすると湊さんはそれを奪って代わりに持ってくれた。
持ちますと言っても俺が持つと言って譲らないから、俺は諦めて湊さんに任せることにした。
その後も色々なところに立ち寄って、さっきまで言っていた美味しそうな店に立ち寄って買い食いをした。
お土産も買って、俺たちは旅館に戻ることにした。
旅館に帰ったのは18時前くらいのことで、俺たちは夕飯の前に風呂に入ることにした。
部屋を出て共用の大浴場…かと思えば、部屋に露天風呂がついているらしく、2人で入ろうと湊さんが誘ってくれた。
体を先に洗って、その間に風呂のお湯を溜める。
風呂は2人で入ってもまだ少し余裕があるくらい大きくて、少し高いところにある旅館だから風呂からは町と海を見ることが出来た。
余裕がある、にも関わらず俺は湊さんにもたれかかるような体勢で体を密着させている。
これ絶対高いよね…、そう思ったけれど、湊さんは値段なんて教えてくれはしないし俺が持つよと言って8割くらいはお金を払ってくれたから申し訳なさが募る。
「けーい」
湊さんは名前を呼びながら上から俺を見下ろす。
「何考えてんの」
「いや…なんでこんなに広いのに密着してるのかな、って…」
咄嗟に出た言葉は勿論嘘だ。
本心を言ったらまた怒られてしまうから、もう俺がこうして貰うことに慣れるしかないのかも。
「え?こうしてた方が俺が癒されるから」
そんな嘘には気づかずに、湊さんはそう言って俺を後ろから軽く抱き締める。
お湯の暑さか、触れ合う体のせいか、それとも単に俺の体が熱いだけか、すぐにのぼせてしまいそうだった。
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