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プロローグ
夜のホテル街を歩く。
夜にも関わらず都会のホテル街は明るく輝いていて、星空なんて少しも見えない。
こうやって教えられたホテルに行く時間が1番憂鬱だ。
今日は新規の客だから、と言われたけれどもう誰でもいい。
だってこうしないと生きていけないし、きっともうあの人には会えない。
着いたホテルは最近出来たのか綺麗な内装で、何となくラッキーだと思った。
汚いホテルより綺麗なホテルの方が良いに決まってる。まあ今どき汚いホテルなんてほとんどないけど。
指定された部屋の前に着くと、いつものようにコンコン、と扉をノックする。
「ご指名頂いたシュウです。お邪魔します」
返事は無いから入ってもいいという合図だと受け取って扉を開く。
扉を開けてすぐには客の姿は見えず、シャワーでも浴びているのかと思ったが少し奥に入ると椅子に腰かけている客の姿が見えた。
「お待たせしました、ご指名頂いたシュウです」
そう腰掛ける男性に声を掛ける。
何だか馴染みのある、心地良い匂いがこの人からはする。
何の匂いだろう、そんな疑問はすぐに解決する。
「…本当に圭だ。久しぶり」
何でこの人がこんなところにいるんだ。
「会いたかったよ。元気にしてた?」
立ち上がって俺の方に近寄ってくる。
俺は咄嗟に後退りをするけど、すぐに彼は俺の目の前に辿り着く。
「逃げないで」
「やめてください…っ」
俺と彼がほぼ同時に言葉を発する。
けど、ああ。この匂い、久しぶりだ。
「…お金は、返します。帰ってください」
でも貴方とはもう会いたくなかった。
もうあんな辛い思いは散々だから。
__そこにいたのは、高校の卒業式で俺を捨てた、大好きだった先輩…三嶋 湊さんだった。
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