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 青葉は窓から逃げ出すまでが体力の限界だったらしく、積もった雪から転がり落ちてくるように見えたのは、本当に落ちていたようだった。 「熱は上がりきったので、今晩がピークで、明日には下がるはずです。眠れるなら眠ったほうがいい」  元医師だという宮下はそう言って、真雪に濡れたタオルを渡した。  真雪はそれで青葉の顔や手を拭ってやった。どこも信じられないぐらい熱を帯びていて、心配でたまらない。確かに眠っているが、たまに苦しそうにうなるし、息も辛そうだった。 「近くに罠猟の仕掛けがありましてね。そこに引っかかられたんですよ。怪我もしていたので、こちらに運んだ次第です」 「へぇ」  ボスが眉を上げて言う。ボスも青葉の布団の近くに座っていたが、心配する様子はほとんどなくて、あぐらをかいてちょっと偉そうだ。今はもう銃が近くにないから、安心しているのだろう。 「さっき着替えさせるときに見たら、新しそうな傷がけっこうありましたけどね。顔にも痣があるし、けっこう手酷く殴ったんじゃないですか?」  ボスは電子タバコを咥えながら言う。  真雪は青葉の首筋をタオルで拭いた。苦しそうな青葉がかわいそう。確かに顔には痣があって痛々しかった。 「多少の手違いはありました」  宮下は正直に言った。 「先程も言いましたが、かつてこの近所にあった施設の信者というか関係者が、たまに来られて辺りに迷惑をかけていたものですから、また関係者が来たのかと警戒しました。境さんもやましいことがあるかのような素振りをされるので、こちらも見極めができず……話し合いのうちに感情が昂ぶることもありました」 「手足、縛ってな」  ボスは挑発するように言う。真雪は青葉の手首の傷を見た。涙が出そうになる。ホントだ。これはきっと縛られてたんだ。それなのに殴るなんて酷い。 「こちらとしても危機感が強かったのです。私たちは高齢者が多く、若い信者の方に詰めかけられたら、もう集落を守りきれないかと」 「ん……まぁ、こいつが疑わしい言動を取ったのは考えられることなので、別にしょうがないと思いますよ。こいつの荷物はありますか?」 「リュックはこちらに」  宮下は、青葉の黒いリュックを出した。ボスがそれをチェックする。 「電話は? 持ってなかったすか?」 「わかりません。雪の中に落とされたのかもしれません。靴を片方と、手袋も失くされています」  真雪はじっと目を閉じている青葉を見つめた。息は苦しそうだけど、その状態で安定している。たまに顔はしかめるが、すぐに戻る。 「そうですか。ちょっといいですか」  ボスが立ち上がり、真雪は驚いた。 「青葉、見てろ。ちょっとオトナの話つけてくる」  ボスが言い、真雪は不安になった。どういう意味だろう。 「大丈夫だ。心配するな。宮下さんと腹を割って話すだけだから」  ボスは宮下を見て、宮下も静かに立ち上がった。 「大丈夫だと思いますが、もし容態が急変したら呼んでください」  そう言って、二人は部屋を出ていった。  真雪はポツリと残されたが、青葉を一人ぼっちにもできなくて、彼のそばでじっと我慢した。
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