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 その数時間前、真雪はボスを叩き起こし、青葉を探しに行きたいと車を出させた。  本当は、青葉と喧嘩をしたときから、ふわりとした不安は胸に兆していた。でも、それは青葉と喧嘩したせいなのかなと思った。いつも青葉と仲違いするときには、チクリと胸が痛んだし、青葉が怪我をしたり病気になっても嫌なチクチクはいつもあった。このところ、青葉が真雪に対していろいろと隠していることも増えて、真雪は青葉のことを思うと胸が嫌な感じになるのにも気づいていて、それが常態化してきていた。  だから本当はいつもよりもっと大きなトラブルが青葉を襲おうとしているのに気づかなかった。大失態だと真雪は思う。  だからボスと一緒に山をぐるぐる回っている。 「もう埋められてるとかじゃねぇだろうな」  ボスが物騒なことを言う。  真雪は彼をギッと睨んで、ぶんぶんと首を振った。 「生きてる。青葉はそんなに簡単に死なないもん」 「じゃぁ探さなくても、ひょこっと帰ってくるだろ」 「ダメ。今すぐ見つけないと。青葉が戻ってこなくなるよ」 「あぁ……そりゃマズいけどな」  真雪はボスの腕に手を置き、窓の外を見た。 「この辺。この辺に来る気がする」 「そうかよ。物騒なおまけはついてるか?」  ボスの問いに、真雪は慎重にうなずいた。  ボスは肩をすくめて真雪を横目で見る。真雪は持ってきていた鈴をギュッと握った。  それから十分ほどは物音もなく、静かな山だった。ボスは車を少し先の藪に隠し、真雪はじっとなだらかな坂を見上げていた。  上から人の声らしきものが聞こえたとき、ボスがピリッと神経を尖らすのがわかった。真雪も手に力を込めた。  罵声がかすかに聞こえ、その手前でザクザクと落ち葉を蹴飛ばしながら、半分滑り落ちているようにも聞こえる足音がした。息が荒く、何かにぶつかっては軽く呻く。 「青葉」  真雪は見えない人の気配に向かって声をかけた。当惑したような雰囲気が伝わり、その後で乱れた足音が続いた。グワッとか、咳き込む声とか、枝が折れる音がして、ザァっと人が重なりながらボスの手前に落ちてきた。 「すげぇな、真雪」  ボスはそう言いながら、慣れた様子で組み合っている二人のうち、青葉ではない方を引き剥がした。落ちてきたときに両方がダメージを受けていたせいもあり、ボスの仕事は意外に簡単だった。 「走れ」  落ち葉と枯れ枝と土でボロボロの青葉を引きずり出してボスが怒鳴って、青葉は視線の先に真雪を見つけて何とか走り出した。 「何だてめぇ」  上から拉致仲間らしい奴が怒鳴ってきて、ボスが振り返る。 「境青葉はこっちのもんだ。下手に手を出すと命はないと思え」  十分に凄味を効かせてボスは言ったが、相手は感受性が良くなかったようだ。 「見つけたモン勝ちだろうが、コラァ」  と歯向かってきたので、ボスはほとんど迷いなく懐の銃を出した。  真雪は倒れ込みそうな青葉を支えて、車の方に運びながらボスを振り返った。ボスが持っている銃がプラスチックの弾が出るエアガンだというのは真雪も知っている。だからあれはハッタリで、大丈夫だと思うけど、大丈夫かな。  青葉と組み合っていた方が足元にタックルしてこようとしたので、ボスは蹴飛ばしついでに銃身で殴り、そのまま上にいるチンピラに銃口を向けた。どちらも二十代ぐらいの若い奴だった。 「どっちが先に死にたい?」  ボスが言うと、二人はゴクリとつばを飲んで逃げ出した。
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