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 真雪や天道とは会えないまま、ピークポートに行く時間になった。イヤホンの使い方の説明を受け、何度も店に入って出るまでをシミュレーションさせられた。店の裏にある路地で警察が待っていて、その車に乗り込むことも確かめた。逃げたら指名手配すると脅されたが、青葉だって逃げるつもりはなかった。自分が逃げたら真雪が何をさせられるかわからない。  ピークポートは、埠頭の倉庫街にいくつか並ぶ店の一つだった。倉庫がリニューアルされてきれいになったところもあれば、雑多な雰囲気を残している店もある。ピークポートは雑多な方で、埠頭で働いている労働者も、街から来る安酒飲みも交じる店だった。  少し手前で警察車両から降り、歩いて店に近づいた。アルコールは飲まないと約束させられていたが、ビールぐらい飲まないと怪しまれるだろうと青葉は思った。店の前の道の反対側は駐車スペースになっていて、完全に全車両が飲酒運転の違反車両に間違いなかった。酔っぱらいもふらふら歩いていることがあるから、軽い接触事故もよくあった。それでも大事故は避けられているみたいだから、不思議だ。  青葉はピークポートの手前でさりげなくイヤホンを触った。ちょっと緊張する。  店の入り口は開店中は開いたままで、そこから男が出てきた。酔っているのか、青葉に当たりそうになったから、横に寄ろうとすると、そこに車が入ってきていた。  前から来た男が青葉を睨みつけるようにして、腕をしならせ、青葉はヤバいと思った。頭をガードして体を縮めようとしたところに、脇腹にパンチが入った。  ガフッと声が漏れ、青葉はバンに引き込まれた。  口を開く前に、顔を殴られ、頭に袋を被せられた。  突然のことで一瞬何があったかかわからなかった。境青葉を積んだバンが猛スピードで埠頭を出ていき、月浦はそのナンバーを手配してもらうように連絡した。が、おそらくすぐに乗り捨てられるだろうとは思っていた。  待機していた車両に乗り込み、バンを追う。 「殺されないといいけど」  月浦は強い焦りを感じ、舌打ちをして前を睨んだ。埠頭の先は、主要道路と路地がいくつも広がっていて、どの道に入ったのかわからない。 「こんなことなら発振器でもつけておけばよかったわ。携帯の電波拾うから適当に走って」  月浦は佐藤に指示した。佐藤は自分の勘を頼りに逃走経路を探る。  それから十分後に携帯電話の位置がわかり、バンも見つかった。  そこには境青葉のものと思われる血痕と、携帯電話が残されていた。 「目撃者探して」  月浦はため息をついて、応援を呼んだ。  この作戦の責任者は自分ではなかったが、おそらく責任は問われるのだろうと思うと、気持ちが沈んだ。
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