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今回は鈴の修理代とお祓いで十万円の現金払い。そのうち半分がボスに入って、青葉と真雪は二万五千円ずつ。それでも充分な稼ぎになる。
青葉が腹が減ったとうるさいから、ハンバーガー店に入った。少し稼ぐようになっても、青葉はあまり贅沢をしなかった。稼いだ金の何割かを借金返済に充てているみたいで、真雪は半分こでなくてもいいよと言ってみたが、青葉はいつも正確に折半した。
「今日のはマシだったな。ああいう負のエネルギーみたいなのは、疲れるんだよな」
青葉が言って、真雪はストロベリーシェイクを飲みながら、青葉を見た。
「鈴ができたてだったから、すぐきれいになったんだよ」
「ああ、それで急いでた?」
「そう。青葉って、鈍感なんだか敏感なんだか、わかんないね」
真雪が笑って言うと、青葉はポテトをつまんで横を向いた。
「俺はシャーマンじゃねぇしな。何も見えてねぇよ」
「でも青葉の作るものは、すっごくいいよ。いつも空気がすっきりきれいになるから好き。たぶん、青葉の中に何かあるんだろうな。水晶の塊みたいなのが」
「そういうこと、天道に言うんじゃねぇぞ。あいつ、マジで俺の腹、切り裂いて探すと思うから」
青葉は顔をしかめて言った。
「大丈夫だよ。ボスはそこまで酷い人じゃないって」
「半分持ってかれて、よくそんなこと言えるな。おまえだって、これがうまくいってなかったら、どっかの店で体売らされてたって。マジで、間違いなく」
「まぁね、たまに今でもセクハラしてくるし」
「くっそ」
青葉はハンバーガーが敵のようにガブガブと噛み付いた。真雪は笑いながらそれを見る。ちゃんと噛んで食べなよと言うと、青葉は噛んでると口を開いて見せようとするから、見せなくていいと真雪は彼の頬を叩いた。
青葉は手の器用な猛獣みたいなものだ。アライグマとかレッサーパンダとか、そういうのに近い。真雪を拾ってくれたのは、子供の頃の自分みたいだったからだって言うけど、青葉は子供の頃の話は滅多にしない。真雪が聞かせてと言っても忘れたとか言うから、あんまり話したくないんだろう。
「真雪さぁ」
青葉が言って、真雪は彼を見た。
「なに?」
「おまえ、もうすぐ十八になるわけよ」
「うん」
「もうボスの保護とかいらなくね?」
「んー……、そうかな」
「金貯まってんだろ?」
「青葉よりは、たぶん」
「俺はほぼゼロだよ。その、おまえが別でやりたいことあったら、やればって思ってさ。これが好きなんなら、いいんだけどよ」
「うん、けっこう好き。面白いし。あちこち行けるし」
真雪が言うと、青葉はちょっと疑うように斜めに見てきた。だから口を尖らす。
「本当だってば」
「嘘とか思ってないけどよ」
青葉もうなずいた。
「ていうか、青葉、借金どれぐらいあるの? 他の仕事して、返せると思う?」
真雪が聞くと、青葉は肩をすくめた。答えない。
でもボスも青葉のことを憎んでるとか、そういうのじゃないように見える。確かに優しくはしてないと思うけど、特別酷い目にも遭わせてないと思う。凶悪犯罪をさせてるわけでもないし、嫌がることを無理やりやらせてるのでもない。お金をほとんど持っていってしまうのは、どういう事情か知らないけど、だからって稼ぎが少ないときに殴ったり脅したりもしない。そして青葉が困窮していたら、ご飯をおごってくれたりもする。よくわからない関係だった。
「あ、青葉、明日はカード作ってよ。縁起のいいやつ」
「え、素材は?」
「銅板で。前のが評判良かったよ。あれと一緒のデザインでいい」
「明日の何時に要るんだよ」
「ボスは十時に設定してるって」
「ふざけんなよ。間に合わねぇよ」
「頑張って」
真雪はウインクして言った。もちろん青葉がそんなもので心を動かしたりしないのはわかっている。が、ボスが時間を変えないことも青葉は知っている。
「帰る」
青葉が不機嫌そうに食べかけのポテトやコーラのカップを集めて言った。
真雪も慌てて半分かじっていたハンバーガーを紙に包み直して追いかけた。
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