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 真雪は本物のシャーマンだと青葉は思う。ゴミ箱の横で小さくなっていたのを見た時から思っていた。何だか変なオーラがあったし、放っておけない焦りも感じた。  実際、真雪は不思議な空気を持っていた。女と見れば、裸にして売れるかどうかしか考えてない天道みたいな奴が、そんなことを全く言わずにそばに置いているのだ。天変地異が起こったようなものだ。みんながびっくりして、そして真雪に一目置く結果になっている。  青葉のボスは天道だが、天道と父の関係はよく知らない。小学生のときに父がいなくなり、天道がやってきて父親は死んだと言った。そしてその後は、天道の支配下だ。父が博打に目がない馬鹿野郎だということは知っていたし、それで母が愛想をつかしていなくなったのも青葉は知っている。でも父が天道にどのぐらい金を借りているのかは教えてもらってないし、父が一体どうやって死んだのかも聞いてない。もしかしたら天道に殺されたんじゃないかとも思っている。  そんな父のおかげで青葉は小学校を三年間しか通えなかった。その後は、何かの詐欺の子役みたいなことをさせられて、たまに全速力で逃げろと命じられることもあった。あれはきっと警察に見つかりかけたのだろう。  天道のところに来てからは、いろんな雑用っぽいことをさせられた。やっぱり学校には行けなくて、十四歳ごろになって背が伸びると、普通に働かされた。十六歳ですと言って工場や飲食店で働き、夜は天道の知り合いのところで商品のパッキングや運び屋をやった。十六になると、二十歳ですと言って酒を出す店で働いた。常に給料は天道が受け取り、青葉は小遣いとして数千円もらうだけだった。  それでも寝る場所とまかないの食事があり、路頭に迷わないでいいだけ感謝しろと言われていたから、確かにそうだと思った。  真雪と小銭を稼いだことは、あっという間にバレ、黙っていたことでボコボコに殴られた。それから彼女の仕事を黙認してやるから半額を上納しろと言われて、それは割合としておかしいと言ってまたボコボコにされた。  天道に反抗をしたのは、そのときが初めてだった。  自分が父親の借金のために働かされているのは、納得はいかないが、母親や他のきょうだいのために我慢できるとしても、関係のない彼女まで金づるにしようとする天道はクソだと思った。  でも彼女がそれでいいと言うなら、仕方ない。  真雪は明るい子だった。無邪気なところもしたたかなところもあって、あの天道もたまに操られている。  天道は青葉と真雪の仕事に高値をつけ、こなしきれないぐらいの仕事を取ってくる。天道はそれで儲かるし、真雪もそこそこ儲かる。根こそぎ取っていかれているのは自分だけなので、青葉はやってられない気がするが、酔っ払った客にビール瓶で殴られる居酒屋の仕事よりはマシだとも言える。  真雪が望む変な道具や、お祓いグッズを作るのも、青葉にとっては嫌なことではなかった。工作はもともと好きだし、必要だと言えば天道が道具も買ってくれる。違法な薬剤をパッキングしているよりは気分もいい。  何より、青葉は真雪が占うときや、お祓いをするとき、近くで見ているのが好きだった。彼女はそういうとき、いつもふわっとした光に覆われていて、なんとなく青葉は懐かしい気持ちになるのだった。
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